英国公園事情 Regent Park

  リージェントパークの近くに住んで10年目。もう自分の庭ともいえる公園にはよく家族で散歩で出かける。アルバニーストリート側から公園に入ると、アテネにあるような神殿があり、コリント様式の支柱が見事なチェスターテラスが右手に並ぶ。

リージェントパーク建設計画にたずさわったジョン・ナッシュの設計である。そこを超えると公園を一周するアウターサークルに出る。この道ではスポーツタイプの自転車がツールドフランスの試合中のように全速力で通り過ぎていく。

 

    公園の中心部に入ると左右に道が分かれる。今日はプリムローズヒルの方に北上することにした。丘の頂上からはロンドンの街全体が見渡せるのだ。木の幹にハイイロイリスがつかまっている。私はポケットからクルミを取り出して、リスが食べやすいように近づける。はじめのうちはリスは怖がって近寄らないが、好奇心が恐怖にに勝り、幹からゆっくり下りて近づいてくるが私は意地悪して、クルミを少しづつ私の体に寄せる。すると我慢ができなくなったリスは私の足先から腿に登ってきて、体をよじ登ってくる。ズボンの上にリスの爪が入ってきてくずぐったい。そしてとうとうクルミを奪ってリスは逃げ去る。

 

   ブロードウォークにはリージェントパークの中では、唯一自転車の乗り入れが可能な道だ。犬の散歩もここでは禁止されていない。左手では豹のようにしなやかに引き締まった体の男がボールを追いかけ、右手ではサイのように屈強な男たちがラグビーをしている…。

    黒白のストライプのユニフォーム来た男が、私に手を振っている。走り回って疲れたようだ。交代したいようだ。嫁と娘の許可を得て、上着のジェケットをはぎ取り、芝生に投げ捨てた。赤と白のアーセナルのユニフォームに、背番号14番と書いてある。後半70分ごろから入っている救世主のような趣で、爽快にピッチに入り、右の中盤にポジションをとる。主導権は完全に敵にとられ、味方はほぼ全員が防御のために下がらされていた。ふいに敵チームが放ったシュートをキーパーが巧みにキャッチ。味方全員が疲れきっていた。唯一、交代したばかりで元気だった、私が敵陣に向かって走っていた。キーパーが私に向かってロングパスを蹴り、見事にトラップ。素早くプレスに来た敵のディフェンダーを、ジダンばりのマルセイユ・ルーレットで一人は交わすが、ディフェンダーも私をコーナーポストぎりぎりまでプレスしてくる。敵の守備も硬く、小柄ではあるがスピードのあるディフェンダーを最後まで振り切れないでいる。レスリーが終了時間の確認するために、腕時計に目を落とす。ついに追いついてきた味方へ、ディフェンダーを交わして、大きくボールが上がる。ディフェンダーを振り切れないと思わせていたのはただの時間稼ぎだったのだ。高くジャンプした味方も、敵のディフェンダーに囲まれた味方の頭上を越えていく。誰もがコースアウトを思い描いたその軌跡が、右回転していたボールが内側に落ち込んでいく。実はセンタリングと思わせてたその曲線は、シュートだったのだ。急速に大きく弧を描いたボールは誰にも触れられずそのまま再度のゴールネットを揺らした。ハイタッチと歓喜の中、レフリーが終了のホイッスルが鳴らす。

   そんなことを夢想しつつ、さらに公園を北上する。左手の動物園を横目にアウターサークルをもう一度超えるとリージェントカナル(運河)が見えてくる。西に行けばリトルベニス、パークローヤルまでつながる、東に行けばエンジェルまでつながる長い運河だ。運河の歩道は細いにもかかわらず、ジョギング、サイクリストがひっきりなしだった。運河のトンネルは天井が低く、頭をぶつけないようにかがんで歩かないといけない。改造して住居になったボートが岸に停泊しており、船窓からは心地よさげにソファーに座り、コーヒーをすする人と私の目が合う。いつの間にかのんびりした雰囲気に吸い寄せられ、丘の頂上に登る予定はそっちのけだった。

    露天の店先からザ・クラッシュの「アイ・フォート・ザ・ロウ」のドラム音が響いてくる。カムデンロックについた。ロックとは水門のことである。二つの水門を調整して、水位を調整するのだ。これは満潮と干潮で水の流れが代わり、水の流れを一定に保つためにそれは機能している。エンジェルまでくると歩道がすでに途切れていた。しかし運河はまだまだ続いている。船にでものってゆっくりのこの続きをいってみたいものだ。引き返すか…。

    ふと顔を上げると、一艘のレジデントボートがやってきてた。「乗っていくか」とひげもじゃの男が言う。芥川龍之介の「トロッコ」の少年が土工と連れ立ったまま家に帰れなくなってしまうあの不安を感じずにはいられなかったが、その船に乗った。ビルの谷間から月が見えた。

天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に いでし月かも 阿部仲麻呂

英国公園事情 Regent Park」に2件のコメントがあります

  1. Shin さん、今晩は。今日、偶然このブログに遭遇しました。あれっ、どっかで見た顔、とびっくりしました。専門的でありながら、とても読みやすい、英國居住者にもそうで無い人達にも興味深いお話がたくさんですね。これからも楽しみにしてしてます。

    1. ご連絡ありがとうございます。長田さん。コメントの返し方がわからなかったので、今まで放置になってしまいました。またよろしくお願いいたします。

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