英国出産事情① labor in UK vol.1

 すでに何度も足を運んだユニバーシティカレッジ病院であったが、今日は初めて来た見知らぬSF都市の巨大な白いビルディングに思えた。その日私の妻が帝王切開手術で出産することになっていた。201245日春の連休前日であった。妻が妊娠しているかもしれないと初めに疑ったのは珍しく私だった。なぜか今回は不思議な霊感が走り、私は妊娠検査薬を買いにブーツ(薬局)に走った。結果は陽性。

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 妊娠が分かるとまず、今までNHS(ナショナルヘルスサービス)で進めていいた体外受精IVFでの人工授精の手続きをキャンセルする必要があった。4年も待ち望んでいて、子供が出来なかったので、自然に妊娠することは諦めていた。人工授精の手続ききでは、何度も専門家との面談があった。すでに人工授精を思い立ってから二年近くが経とうとしていた。

 

 英国は日本と比べ社会福祉が充実しており、日本人の私からすると、驚かされるサービスがたくさんある。無料の国民医療保険、低所得者を対象に与えられる公共住宅や家賃の補助手当、失業者手当、単身父子・母子家庭への手当、自動手当、入場料無料の美術館等だ。この社会福祉法制度のおかげて、体外受精のための専門家との面談は、アポイントを取り付けるのは苦労はしたものの、費用は交通費しかかからずにすんだ。しかしながら、今回妻が自然に妊娠したため、この二年間の奔走は幸運にも徒労に終わった。

 

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 妊娠の事実が判明後、妻のお腹の具合を見るために、超音波によるスキャンを何回かに渡って確認することになる。お腹がだんだん大きくなっていくにつれ、赤ちゃんが無事に育ってきていることは想像できた。白黒のモニターからぼんやりとうつるわが子の姿とスピーカーから聞こえる生命を刻む確かな心音に、あらためて大きな感動と安堵が押し寄せてくる。男性の方には奥様が妊娠された際の、ぜひ超音波検査に立ち会うことをお薦めしたい。超音波での赤ん坊の写真も記念にもらえるし、何よりどんな映画や小説より感動できる。

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 妊娠3か月後目のスキャンの時に、子供がサカゴになっていることを知らされたが、これは通常そういうものだそうだ。出産予定日に向かってだんだん赤ん坊の頭の位置が正常になるはずだといわれた。3日間にわたり行われる出産に関する講習と、1日がかりで行う子供の食事に関する講習にもそれぞれ参加することになる。実は食事に関する講習の際、私は仕事が忙しく参加することができなかった。結局英国人の妻は一人で参加することになり、参加者はカップルで参加しているのに、彼女は一人で寂しかったらしく、その後の講習には必ず参加するように強く求められた。

 この3日間の講習で妻がどのように子供を産むかを考えさせられることになる。自然分娩、水中出産、自宅出産、帝王切開、無痛分娩等である。妻は水中分娩を希望していた。水中で出産というと、ニルバーナの「ネバーマインドのCDジャケットを連想する。赤ん坊が大きなプールの中でお札がついた釣り糸を追っている画だ。しかし実際の水中出産とは家庭のバスタブを2.3倍大きくした程度のものでしかない。

 しかしその後のスキャンでわかったのだが、赤ん坊が正常な位置、ひっくり返る状態に最後までならずサカゴになったままだった。医者と相談後、手で子供をひっくり返すことも提案されたが、それを選択すると妻の生命にリスクを伴うため、結局帝王切開を選択した。手術前に危険に関する合意書に署名させられる。春の連休に入ってしまうこともあり、医者が少なくなるとう事情に加え、帝王切開の特性として、赤ん坊が小さいほうがやり易いということもあり、本来の予定日よりも10日ほど早い4月5日が手術日に決まった。

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 手術当日に戻る。病院の中は朝から業務で騒がしく、待合室に座った後、落ち着く間もなく、すぐに嫁の名前が呼ばれた。まず4っつほどベッドがある小さな部屋に連れていかれる。手術室に入るために服を着替えさせられる。緊張が体を包み込む。妻は事前に病院からもらっていた下半身麻酔用のタイトな緑色のストッキングを履き、足に名前の入ったタグをつけられる。一通りの準備が新しい生命を迎えるためのおごそこな儀式のようにも感じられた。看護士から別の部屋へ移動するように指示される。いよいよだ。娘との対面はもうすぐそこに迫っている。緊張感に震える足を一歩踏み出した。(次回へ続く)

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