EPCによる法的規制と2017年の悲劇グレンフェル火災の教訓

山田さん

違法外装工事で火事になったロンドンのGrenfellの事件がありましたが、あの事件と気候変動のイギリスの法的政府の決定は関係がありますか。

そんな疑問をお持ちのイギリス、ロンドン在住の方は是非最後まで読んでいただければ、参考になると思います。

筆者はイギリス、ロンドン在住18年で、不動産業界に計17年働いている現役のプロの不動産業界人です。

あの大惨事から7年近く経ったので、そろそろ振り返ってみたいと思います。

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目次

グレンフェルの大火事とはなんだっか。

グレンフェル・タワー火災は、2017年6月14日にロンドンのノース・ケンジントン地区にある24階建ての高層住宅ビル「グレンフェル・タワー」で発生した大規模火災です。この火災は英国史上最悪の住宅火災の一つとされ、72人が亡くなり、多くの人々に深い衝撃を与えました。

グレンフェル・タワー火災の主な原因

グレンフェル火災は、いくつかの要因が重なった結果、悲惨な被害を引き起こしました。以下に主な原因を説明します。


外装材(クラッディング)の問題

  • 火災が急速に広がった最大の要因は、ビルの外壁に取り付けられた**可燃性の外装材(クラッディング)**です。
  • アルミニウム複合パネル(ACMパネル)にポリエチレン製の芯材が使用されており、この芯材が極めて燃えやすい素材でした。
  • 断熱材(Celotex RS5000)も可燃性があり、炎の拡大に拍車をかけました。

heat insulating material

消防設備の不備

  • ビル内にはスプリンクラー設備が設置されていませんでした。
  • 消火栓も住民にとって使用が難しく、火災が拡大する中、消防士が十分な水圧を確保するのに苦労しました。
  • 階段が1つしかなく、避難経路として不十分でした。

「Stay Put」ポリシーの問題

  • 英国では高層住宅の火災時に、原則として住民は「Stay Put(その場に留まる)」という方針が推奨されています。
  • これは、通常の火災であれば火が一部のフラットに限定されるため、避難するよりも安全だと考えられていたためです。
  • しかし、グレンフェルの火災は外壁を伝って急速に燃え広がったため、Stay Putの指示が裏目に出ました。

建築基準と規制の問題

  • 建築基準法の不備や規制の緩さも問題視されています。
  • 特に、可燃性のクラッディングが合法的に使用できる状況が、問題をさらに深刻化させました。
  • 火災後、多くの高層ビルがグレンフェルと同様の危険性があると判明し、大規模な改修が行われました。

社会的要因

  • グレンフェル・タワーは社会住宅(council housing)であり、低所得者層が多く住んでいました。
  • 住民たちは火災前から「建物の安全性」について何度も警告を発していましたが、その声は十分に取り上げられませんでした。
  • この背景から、社会的不平等や政府の対応の遅れも批判される要因となりました。

grenfell

なぜ外壁を新しくつける必要があったんですか。

断熱性の向上

  • グレンフェル・タワーは1974年に建設された**社会住宅(council housing)**であり、建物の断熱性能が現代の基準と比べて劣っていました。
  • 改修工事では、エネルギー効率を高め、断熱効果を向上させるために外壁の追加が計画されました。
  • これは特に冬場の暖房費削減を意識した措置で、住民の快適な生活環境を改善する目的がありました。

防音効果の向上

  • グレンフェル・タワーが位置するロンドン西部のノース・ケンジントン地区は、交通量の多いエリアでもありました。
  • 外装材は、騒音を軽減する効果も期待されており、住民の生活環境改善の一環として採用されました。

外観の美観向上

  • グレンフェル・タワーは建築から40年以上が経過しており、外壁の老朽化が進んでいました。
  • 改修工事の一環で、見た目をよりモダンで整った印象にするため、外装材の導入が決定されました。
  • この点は特に重要視され、裕福なエリアとの調和を図る狙いがあったと言われています。

地元住民や政治的な圧力

  • グレンフェル・タワーが位置するケンジントン&チェルシー地区は、ロンドンでも特に裕福な地域です。
  • グレンフェル・タワーのような社会住宅は、周囲の「高級住宅街」との景観の不調和が問題視されていました。
  • 改修では、タワーの外観をより「高級感があるデザイン」にするために、特定のクラッディング素材が選ばれたと言われています。

予算とコストカットの問題

  • 改修工事では、もともと予定されていた難燃性のクラッディング材が、より安価な可燃性のクラッディング材に変更されました。
  • この決定はコスト削減が理由とされ、当初の予算よりも安価に仕上げるための措置だったことが後に明らかになっています。
  • 特に、使用された「Reynobond PE」というクラッディングは、燃えやすいポリエチレン製芯材が含まれており、火災拡大の大きな要因となりました。

根本的な問題

  • こうした改修工事は「生活の質を向上させる」名目で行われましたが、安全性の軽視が結果的に大惨事を引き起こしました。
  • コスト削減やデザイン優先の決定が、住民の命に関わる大きなリスクを伴っていたことが、後の調査で明らかになっています。

断熱性を上げる必要性とEPCの法的関係

グレンフェル・タワーの断熱性能向上は、部分的に法的な要件エネルギー効率の向上政策と関係がありました。特に、英国の建築基準や**エネルギーパフォーマンス証明書(EPC:Energy Performance Certificate)の要件が影響しています。


EPC(Energy Performance Certificate)とは?

  • **EPC(エネルギーパフォーマンス証明書)**は、建物のエネルギー効率を評価するための証明書で、**A(最も効率的)~G(最も非効率)**の7段階評価が行われます。
  • 英国では、住宅や商業用物件を売買または賃貸する際、EPCの取得が義務付けられています。
  • EPCは、建物の断熱性能暖房設備照明の効率などに基づいて評価され、断熱材の有無は評価に大きく関係します。

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改修工事とエネルギー効率向上の法的背景

  • グレンフェル・タワーの改修が行われた2015~2016年の時点で、イギリスでは政府がエネルギー効率改善の取り組みを強化していました。
  • 特に、2010年に導入された「The Energy Efficiency (Private Rented Property) (England and Wales) Regulations 2015」により、以下が求められるようになりました。
  • 断熱材の追加
  • 二重窓の設置
  • 効率的なボイラーや暖房設備の導入

EPCが「E」以上の物件のみが賃貸可能となるルールが2018年に導入されることが決まっていたため、改修はその基準を満たすための措置でもありました。


グリーン政策と補助金の影響

  • イギリス政府はカーボン排出削減を目的とした「Green Deal」という政策を展開しており、住宅の断熱性能向上やエネルギー効率改善のための補助金が支給されていました。
  • 地方自治体や住宅管理者は、補助金を活用して改修を行うことが多く、これがグレンフェル・タワーの断熱材設置の動機の一つになったとされています。

社会住宅の環境改善のための取り組み

  • グレンフェル・タワーは**社会住宅(council housing)**で、低所得者層が多く住んでいました。
  • 英国ではこうした住宅の寒さ結露カビの発生が問題視されることが多く、断熱材の導入は生活の質を向上させるための重要な対策と見なされていました。
  • ノース・ケンジントンは冬季に冷え込みが厳しいエリアでもあり、断熱材の導入は生活改善策としても求められていたのです。

コストと安全性のジレンマ

  • グレンフェル・タワーの改修に使用された外装材「Reynobond PE」は、断熱効果が高く、費用が安い採用されました。
  • Reynobond PE」の素材は火災のリスクが高く、安全性が十分に確認されないまま設置されました。

イギリスのEPCと賃貸の制限

イギリスでは、EPC(エネルギーパフォーマンス証明書)は、建物のエネルギー効率を評価する重要な指標です。特に賃貸物件に関しては、EPCの評価が一定の基準を満たしていないと貸し出しができないという法的制限があります。以下に詳しく説明しす。

EPC(エネルギーパフォーマンス証明書)とは?

EPCは、建物のエネルギー効率をA~Gの7段階で評価した証明書です。

  • A (最も効率的) ~ G (最も非効率)
  • EPCは10年間有効です。
  • 賃貸や売却の際にEPCの提出は法的に義務付けられています。

評価基準の例

  • A~B:非常に効率的で、エネルギーコストが低い
  • C~D:平均的な効率
  • E~G:非効率で、エネルギーコストが高く、改修が推奨される

EPCと賃貸の法的制限

イギリスでは、エネルギー効率の悪い住宅を減らすために、最低エネルギー効率基準(MEES: Minimum Energy Efficiency Standards)が導入されています。

MEESの主なルール

  • 2018年4月1日以降、EPC評価が「F」または「G」の物件は賃貸禁止
  • 2020年4月1日以降、この規則は既存の賃貸契約にも適用され、すべての賃貸物件が**「E」以上**の評価でなければならないとされています。
  • 2025年には、最低基準が「D以上」に引き上げられる見込みです。
  • 2030年には「C以上」が義務化される可能性があります。

例外規定:一部の物件は「改善不可能」と判断される場合、EPC改善義務から免除される場合がありますが、正式な「Exemption Certificate(免除証明書)」が必要です。


EPCと賃貸市場の今後の見通し

イギリス政府は、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出ゼロ)を目指しており、EPC基準の強化は今後さらに厳しくなる見通しです。

  • 2025年以降は、「D」以上が義務化される予定。
  • 2030年には、「C」以上が賃貸基準として設定される可能性が高い。

まとめ

グレンフェル・タワーの断熱材設置は、以下の複数の要因が絡んだ結果でした。

  • EPC基準の向上に対応するための改修
  • 政府のエネルギー効率改善政策(Green Deal)に沿った取り組み
  • 社会住宅の住環境改善を目的とした断熱対策
  • 地域社会からの美観改善の要望
  • コスト削減のため、危険な素材が選ばれた

この悲劇は、省エネルギー対策コスト削減が優先され、安全性が軽視された結果として起きた悲劇の人災になりました。つまり地球温暖化を防がないといけないという人道的なモラルと実際的なコストとそれを負担する実生活の間にギャップがあり、それを取り仕切る業者と政府がコストカットのため、不適切な資材を使ってしまったのです。その被害をもろに受けたのは、低所得者のカウンシルフラットに住むイギリスに移民できた2世、3世だったのです。

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この記事を書いた人

西島伸一朗のアバター 西島伸一朗 https://jtecpc.co.uk/

Japan TEC Property and Cleaning Service Ltd.(JTECPC.CO.UK)のディレクター。
2007年にロンドンへ移住。アクトンの日系不動産仲介を皮切りに、ノッティングヒルやフィンチェリー、さらにイーリングといった地域で豊富な賃貸仲介経験を積み、独立。2019年より本業。趣味はバドミントン。#グーナー。

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