英国の新たな賃借人権利法「Renters’ Rights Act」の影響

3人家族が犬と一緒にいる
山田さん

英国の新たな賃借人権利法が2025年から始まったと聞いています。大家さんやテナントに何か影響はありますか。

2025年、英国で約40年ぶりとなる民間賃貸市場の大改革「Renters’ Rights Act(賃借人権利法)」が成立しました。これは、従来の賃貸制度を根本から見直し、テナント(賃借人)の権利を強化する一方で、家主に対しても新たな責任や規制を課す大きな転換点となります。

この法律はイギリス国内の家主だけでなく、ロンドンやマンチェスターなどで物件を所有する海外不動産投資家にも少なからぬ影響を及ぼします。

ここでは、実際にどのようなリスクや機会が生まれるのかを詳しく見ていきます。


目次

1. 賃料上昇の制限と利回りへの影響

本法の大きな柱のひとつが、「賃料の増額ルールの厳格化」です。
今後、家主は年に1回しか家賃を引き上げることができず、その際には最低2か月前の書面通知が義務化されます。加えて、賃借人は「家賃が市場水準を大きく上回っている」と判断した場合、First-tier Tribunal(第一審裁判所)に異議申し立てを行うことができます。

これにより、インフレ率や市場家賃が急上昇した場合でも、家主は柔軟に対応できません。例えば、CPIが6%上昇しても、家賃改定が1年に1回しか認められないため、実質利回りが目減りするリスクがあります。
また、「賃料入札(bidding)」が禁止されるため、人気物件で家賃を競り上げる行為もできなくなります。これは、特にロンドン中心部など競争の激しいエリアで、家主側の収益機会を狭めることになります。

結果的に、海外投資家にとっては賃料収益の上昇余地が制限されることになり、投資利回り(yield)はやや低下する見通しです。

ただ従来の一年契約の場合のフォーマットは、家賃値上げは一年一回だけな場合が多いので、この箇所の明文化はそれほど影響ないと思います。


2. Section 21廃止と「立ち退きの難化」

従来、家主は「Section 21通知」により、理由を明示せずに賃借人を立ち退かせることができました。いわゆる「No Fault Eviction(理由なき退去)」です。
しかし本法により、この制度は廃止されます。これからは、家主が退去を求める際には正当な理由(Section 8に基づく理由)が必要になります。

正当な理由として認められるのは、主に次のようなケースです。

  • 賃料の滞納(一定期間以上の未払い)
  • 家主自身が居住する必要がある場合
  • 物件の売却を予定している場合
  • テナントによる重大な契約違反

つまり、「売却」または「自己使用」以外では簡単に退去させられないことになります。
しかも、退去を求めるには裁判所命令(Possession Order)が必要なケースが多く、手続きには時間と費用がかかります。

海外投資家の多くは、現地にいないため管理会社にすべてを委託しているのが実情です。
そのため、賃借人とのトラブルが起きた場合、解決まで数か月を要することも珍しくありません。
これはキャッシュフローの安定性を損ない、特に住宅ローンを利用している投資家にとってはリスクが高まります。

従来のSection21により、理不尽にテナントを追い出すことができた(つまり家賃を上げたいから、九月始まりのサイクルにしたいから)などが家主はできなくなったということですね。投資家にとっては問題がないですが、物件を買って、住みたい人にとってはテナント付きで買って、途中で追い出すことが難しくようです。


3. 管理コストと手続き負担の増加

Renters’ Rights Actでは、家主に対して新たな登録制度(Private Rented Sector Database)への登録を義務付けています。

このデータベースには家主情報・物件情報を登録しなければ、物件を合法的に貸し出すことができません。登録しないまま賃貸広告を出すと罰則の対象となります。

海外投資家の場合、これらの手続きを現地エージェントを通じて行う必要があり、手数料や事務コストが上昇します。


4. ペット飼育請求権と差別禁止

新法では、賃借人がペット飼育を希望する場合、家主は「合理的理由」なしには拒否できないと定められました。
「ペット不可」を条件にしていた物件も、今後はケースバイケースで柔軟な対応が求められます。
また、家主は「子どもがいる」「給付金を受けている」といった理由で入居を断ることもできません。

これにより、家主はこれまで以上に入居者の属性を選びにくくなる一方、社会的公平性は向上します。
ただし、ペットによる損傷リスクや騒音など、実務上の課題も残るため、今後はペット対応方針を明文化した賃貸契約書の整備が必要になります。

集合住宅のルールですでにペット禁止になっている場合は、ペットを新たに飼うのは難しいように思えます。ただ一軒家は自動的にペット可になりそうですね。


5. 海外投資家に特有の課題:管理エージェント依存の強化

法改正によって、家主の法的責任や書面交付義務が増えるため、海外投資家にとっては現地代理人(エージェント)選びがこれまで以上に重要になります。


登録、契約更新、修繕対応、法令遵守など、実務の多くをエージェントが担うことになります。
そのため、英国賃貸法制に詳しく、英語・日本語両方で対応できる管理会社の存在は、今後ますます価値を持ちます。

一方で、こうした手続きの複雑化はプロフェッショナル管理会社の市場シェアを拡大させる結果にもなりえます。
つまり、信頼できる管理網を持つ海外投資家には、逆に競争優位性が生まれるという見方もできます。


6. 長期的には「市場安定」と「プロ化」へ

短期的には、Renters’ Rights Actにより「家主の自由度が減る」「運用コストが増える」など、ネガティブな影響が目立ちます。

長期的に見ると、この改革は英国賃貸市場の信頼性を高める方向に働きます。

無秩序な立ち退きや質の低い物件が減り、テナント満足度が向上することで、優良物件の稼働率は高まる可能性があります。


7. 海外投資家が今すぐ取るべき対応

  1. 家主登録(PRS Database)と物件情報の整備
     → 管理会社を通じ、登録体制を確認する。
  2. Decent Homes Standardへの事前対応
     → EPC評価・湿気・火災安全の改善を計画的に実施。
  3. 新契約テンプレートへの更新
     → 家賃増額ルール、ペット条項、差別防止条項を明文化。
  4. 正当理由退去(Section 8)の理解と証拠管理
     → 売却・自己使用時の退去手順を把握しておく。
  5. 現地エージェントとの契約再確認
     → 責任範囲・法改正対応力・報告義務を明確化。

まとめ

Renters’ Rights Actは、英国の民間賃貸市場を「家主主導」から「テナントとのバランス型」へと移行させる改革です。

海外投資家にとっては、短期的に手続きやコスト負担が増える一方、長期的には市場の透明性と安定性が高まり、信頼できる投資先としての英国の魅力を強化する法改正といえます。

この法律はイングランドで始まったばかりで、スコットランドでは適用されません。

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この記事を書いた人

西島伸一朗のアバター 西島伸一朗 https://jtecpc.co.uk/

Japan TEC Property and Cleaning Service Ltd.(JTECPC.CO.UK)のディレクター。
2007年にロンドンへ移住。アクトンの日系不動産仲介を皮切りに、ノッティングヒルやフィンチェリー、さらにイーリングといった地域で豊富な賃貸仲介経験を積み、独立。2019年より本業。趣味はバドミントン。#グーナー。

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