北アイルランド赴任、家は会社契約か個人契約か

北アイルランド 法人契約?個人契約?
山田さん

北アイルランドに拠点があります。駐在員の賃貸仲介お願いできますか。

JTECに北アイルランドの賃貸仲介お任せくださいませ。

ベルファストに拠点がある。事業計画もビザも順調。なのに、最後の最後で総務の手が止まる。「で、駐在員の家、どうやって借りるの?」って。これ、地味だけど超大事な仕事なんですよね。

北アイルランドの賃貸には、駐在員本人が借りる「個人契約」と、会社が契約主体になる「法人契約(Company Let)」の2つの道がある。

そして、この2つは法律の保護も、お金のかかり方も、トラブったときの責任の重さも、ぜんぜん違う。ここを知らずに進めると、あとで「えっ、そんな話だったの?」ってなる。今日はそこを、総務担当者の目線でほどいていきます。

駐在員の住居って、本人に借りてもらえばいいんじゃないの? わざわざ会社契約にする意味あるのかな…

そこが分かれ道なんですよ。実は「本人に借りてもらう」のが一番ラクに見えて、北アイルランドだと一番つまずきやすい。

この記事で、両方のメリットとリスクをぜんぶ整理します。

目次

そもそも北アイルランドは「別の国」くらい賃貸ルールが違う

そもそも北アイルランドは「別の国」くらい賃貸ルールが違う男性二人と女性一人がミーティングルームにいる

最初にここだけは押さえてほしい。北アイルランドの賃貸ルールは、イングランドとも、お隣のアイルランド共和国とも別物です。

よくある勘違いが、「イギリスの賃貸法でしょ?」ってやつ。でも住宅まわりの法律は地域ごとに分かれてて、北アイルランドは独自の体系を持ってる。だから、いまイングランドで話題の「2025年借主権利法(Renters’ Rights Act)」の新ルールも、北アイルランドには一切適用されません。

ダブリン(アイルランド共和国)の法律ももちろん別。ベルファストとダブリンは車で2時間ですけど、賃貸の世界では完全に別ルールなんですよね。

で、その北アイルランドの中で、さらに「個人が借りるか」「法人が借りるか」で扱いがガラッと変わる。ここから本題です。

違い① 法律の保護:個人は手厚く守られ、法人は自己責任

個人契約はやることが駐在員まかせ。

一番おおきな違いがこれ。誰がテナントになるかで、法律がどれだけ味方してくれるかが変わります。

個人契約(Private Tenancy)=消費者として強力に保護される

駐在員本人が借りる場合、それは「個人の賃貸借(Private Tenancy)」になります。これは「2006年民間賃貸(北アイルランド)命令」や「2022年民間賃貸法(北アイルランド)」っていう法律で、がっちり守られる。法定の解約告知期間とか、契約サマリーをもらう権利とか、借主に有利な権利が自動でついてくる。

しかもこの保護、契約書で勝手に外せないんです。大家が「うちの物件はこの項目はナシで」って書いても無効。消費者を守るための強行ルールだから、契約書の文言より法律が優先される。借りる側からすると、めちゃくちゃ心強い。

法人契約(Company Let)=B2Bの自由な商取引扱い

一方、会社が借主になる「Company Let」は、立場がまるで変わる。法律上の借主が「人」じゃなくて「法人」だから、消費者保護の枠から完全に外れるんです。専門的には「住宅法の適用外契約(NHA:Non-Housing Act Tenancy)」とか、コモン・ロー上のB2B商業契約として扱われる。

つまり、大家と会社が「対等なビジネス同士」として、自由に条件を決める世界。これは裏を返すと、個人契約なら自動でついてきた保護が、法人契約には一切ついてこないってこと。守ってくれるのは法律じゃなくて、自分たちで交渉して契約書に書き込んだ条文だけ。ここ、あとでめちゃくちゃ効いてきます。

保護がないって、なんか怖いな…。じゃあ法人契約って不利なだけ?

いや、そうとも言い切れないんだよね。法人契約には「会社の信用力で良い物件を素早く押さえられる」という大きな武器がある。次のお金の話と、後半の防衛策まで読むと見えてきます。

違い② お金とコンプラ:デポジットの上限が「あるか・ないか」

個人契約だと敷金が保護されているようす。

次はお金の話。ここも個人と法人でルールが分かれてて、総務的には予算組みに直結します。

デポジット(敷金)の扱いがまるで違う

個人契約だと、敷金には法律で上限があります。家賃の1ヶ月分まで。それ以上は取れない。

しかも大家は受け取ったあと、政府公認の保護機関「TDS NI」などに預ける義務がある。期限は受領から28日以内。これをサボると、時効なしで罰金や刑事罰の対象になる。つまり大家の手元には置けず、第三者がお金を守ってくれる仕組みです。ここらへんはイングランドと同じ。

ところが法人契約だと、この上限ルールも預託義務も適用されません。実務では家賃の6週間分(ペットがいると8週間分)を求められるのが標準。しかもそのお金は保護機関じゃなくて、大家やエージェントの口座でそのまま保管される。退去時に揉めたら、取り戻すのに個人契約より一手間かかる、ってことは頭に入れておきたい。

北アイルランドの法人契約(Company Let)は、個人契約と違って敷金の政府公認スキーム(TDS NI)への預託義務がない。だから敷金は大家か不動産屋が直接持つことになる。不動産屋が持つ場合、その立場が「ステークホルダー(中立の保管者)」か「大家の代理人」かで安全度が大きく変わる。ステークホルダーなら、大家と借主の双方合意か裁判所の指示がない限り動かせず、大家が勝手に差し引けないので借主に有利。一方「大家の代理人」だと大家の指示通りに動くだけで、大家が直接持つのとほぼ同じ。だから契約書に「held as stakeholder」と明記させるのが第一の鍵。ただし北アイルランドはCMP(顧客資金保護)が義務化されておらず、不動産屋が倒産・使い込みをしても自動では守られない。そこで防衛策が、ARLA Propertymarkなど自主的にCMPに加入している公認業者を使うこと。これで「大家が勝手に動かせない+業者が飛んでも保護される」の二重の守りになる。ただし個人契約のTDSにある無料の独立裁定(ADR)は法人契約にはなく、揉めたら最終的に交渉か裁判での決着になる点は個人契約に一歩譲る。

法人だと上乗せされる「特別手数料」

北アイルランドは、エージェントが実費を借主に請求するのが合法な地域。で、法人契約だと専用の手数料がいろいろ乗ってきます。たとえば契約交渉・作成料で385ポンドくらい、法人の与信確認料で1社あたり120ポンドくらい。これに付加価値税(VAT)20%が上乗せ。キャンセルしたときの違約金も、個人より高め(600ポンドとか)に設定されがちです。

金額はあくまで一例だけど、「法人契約は初期費用が個人より膨らむ」という傾向は知っておいて損はない。見積もりをもらうときは、VAT込みの総額で出してもらうのがコツです。

安全証明の義務は、個人でも法人でも大家側にある

ここは安心材料。

テナントが個人だろうと法人だろうと、建物の安全を保つ義務は大家側にあります。具体的には、電気設備の安全報告書(EICR)を5年ごとに取ること。火災・煙・一酸化炭素(CO)の報知器を連動させて設置すること。ガスの安全証明(CP12)を取ること。

とくに電気のEICRは、やっと2024年の新しい規則で本格的に義務化されました。

新規の入居は2025年4月から、既存の入居も2025年12月から、検査が必須になっています。内見のときに「EICRはありますか?」と一言聞くだけで、知ったかできますね。

違い③ 総務の意思決定:社宅(法人)と手当支給(個人)、どっちを選ぶ?

総務の意思決定:社宅(法人)と手当支給(個人)、どっちを選ぶ?

さて、ここが総務担当者にとっての本丸。会社として「法人契約で社宅にする」か「個人契約にして住宅手当を渡す」か。それぞれに良し悪しがあります。

個人契約+手当支給スキーム

メリットは、会社が法的・財務的な責任を完全に切り離せること。トラブルが起きても対応するのは駐在員本人だし、急な帰任のときも法定の解約告知(たとえば4週間前通知)でスッと抜けられる。会社の帳簿にも契約が残らない。

デメリットは、審査のハードルが高いこと。英国でのクレジットスコアを持たない外国籍の駐在員が、単独で大家の審査を通すのは正直かなり厳しい。結果として「家賃の6〜12ヶ月分を前払い」とか「有料の現地保証人サービスを使う」とか、条件を上乗せされるケースが大半なんですよね。せっかく身軽なはずが、現金をどっさり用意するハメになる。

北アイルランドでは個人契約で家賃の前払いが2026年6月の時点では違法ではない。

法人契約+社宅スキーム

メリットは、会社の信用力をそのまま使えること。日本の親会社や現地法人の与信で審査が通るから、駐在員個人の審査問題を丸ごとスキップできる。ベルファストの賃貸市場は良い物件の取り合いなので、このスピード感は強い。赴任したその日から仕事に集中してもらえる。

デメリットは、さっき触れた「保護がない」が効いてくる点。途中解約を守ってくれる仕組みがないので、急な人事異動で駐在員が抜けても、残りの契約期間の家賃を払い続けるリスクがある。空室なのに家賃だけ出ていく、いわゆる二重払いってやつ。物件トラブルが会社の信用に直結するのも、地味に重い。

法人契約のスピード感は魅力だけど、途中解約のリスクが怖いな…。何か手はないの?

あります。法人契約は「契約書に何を書くか」が全て。だから最初の交渉で守りの条文を入れておく。次で具体的に4つ紹介します。

法人契約なら必ず交渉したい「4つの防衛約款」

法人契約の4つの防衛約款

法人契約は法律が守ってくれない。だからこそ、契約書に自分たちで守りを書き込む。ここを詰めるかどうかで、あとの安心感が全然違います。総務として最低限おさえたいのが、この4つ。

1. 外交官条項(Break Clause/Diplomatic Clause)

急な帰任や転勤になったとき、違約金なしで途中解約できる権利。これがないと、人が抜けても残期間の家賃を払い続けることになる。法人契約で一番大事な約款と言ってもいい。

2. 居住者の交代権(Permitted Occupierの変更権)

住む駐在員が代わったとき、追加の手数料なしで入れ替えできる権利。社宅って、人事異動で住人が代わるのが前提ですよね。これを入れておかないと、交代のたびに手数料を取られかねない。

3. 地方税(Rates)の負担区分をはっきりさせる

北アイルランド特有のポイント。ここの地方税は「Rates」といって、イングランドのCouncil Taxとは別物。なんと上下水道の使用料まで含まれてる。これが家賃に込み(Inclusive)なのか、別途負担なのか。契約書で必ず確認しておく。あとで「水道代、別だったの?」とならないために。

Rates とは住民税のことですが、この住民税に水道代が含まれています。スコットランドと同じ感じですね。イングランド人には違和感しかないですが😅

4. ARLA公認の管理会社を通す

悪質な業者を避けるための保険。「ARLA Propertymark」などに加盟しているエージェントは、預けたお金が保護される仕組み(顧客資金保護)の対象になる。法人契約は預けるお金も大きいので、ここはケチらず公認業者を選びたいところ。

2年目のPeriodic(断続的な契約期間)に入ると、個人契約と法人契約で守られ方がガラッと変わる

2年目のPeriodic(断続的な契約期間)に入ると、個人契約と法人契約で守られ方がガラッと変わる

1年の固定契約が終わって、そのまま住み続ける。北アイルランドだと、ここで多くの人がPeriodic(期間の定めのない月単位の継続契約)に移行します。で、ここからが本題。同じ「2年目のPeriodic」でも、個人で借りてるか、会社名義で借りてるかで、守られ方が全然違うんですよ。

個人でも法人でも、2年目になればテナントの権利って同じじゃないの…?

そこ、勘違いしやすいところ。実は「法律が守ってくれるか」「契約書だけが頼りか」っていう、けっこう大きな差があるんです。

個人契約:2年目以降は「法律が自動で守ってくれる」フェーズ

個人で借りている場合、periodicに移っても、北アイルランドの私的賃貸(private tenancy)の法的保護がそのまま続きます。難しい手続きはいりません。住み続けて家賃を払っていれば、自動でこのフェーズに入る。

ここで効いてくるのが、継続年数で決まる通知期間です。2年目(=継続12ヶ月超)になると、大家が出ていってほしいと思っても、簡単には追い出せなくなる。具体的にはこうです。

  • テナント(あなた)→大家の退去通知:4週間前。長く住んでも、出るときは身軽なまま。
  • 大家→テナントの立ち退き通知:8週間前(10年を超えると12週間前)。2年目に入った時点で、4週間から8週間に倍増します。

つまり「自分から出るのは4週間前でOK、でも追い出されるには大家は8週間かけないといけない」。この非対称が、地味にありがたい。さらに家賃の値上げも、前回の値上げから12ヶ月は上げられない(年1回まで)という制限が続きます。長く住むほどテナントが守られる、という設計なんですよね。

法人契約:2年目以降の守りは「契約書に書いてあることが全部」

一方、会社名義の法人契約(company let)。これは、実際に住むのが従業員でも、借主が会社なので「個人が自宅として住む」という前提から外れます。結果、さっきの個人向けの法的保護が原則として及ばない

何が変わるかというと、こう。

  • 大家からの立ち退き通知の8週間ルールは、自動では付いてこない。契約書に通知期間を書いておかないと、保護が薄くなる。
  • テナント側の4週間ルールも法定保証なし。解約条件は契約書で合意した内容に従う。
  • 年1回までの家賃値上げ制限も及ばない。改定ルールは契約書のrent review条項しだい。

ただ、悪いことばかりじゃない。法人契約には、個人契約にはない強みもあります。たとえば住む人(occupier)を会社が差し替えられる条項を入れておけば、駐在員が交代しても契約を結び直さずに人だけ入れ替えできる。会社の信用で借りられるから、来英直後で英国の信用履歴がない人でも審査が通りやすい。ここは大きい。

だから仮に法人契約をした場合に、もし2年目に突入した場合、periodic になり、個人契約と同様テナントは四週間の事前通知を持って退去できるという項目をいれないといけません。

じゃあ法人契約だと、2年目になっても通知期間とか自分で決めなきゃダメってこと?

そうなんです。だからこそ、契約を結ぶ前に「退去通知は何週間前か」を契約書に必ず書き込んでおく。ここを空白にすると、いざというとき揉めます。

退去通知(事前通知)の早見:2年目periodicの場合

2年目のperiodicに入ったとき、退去の事前通知がどうなるかをまとめるとこんな感じです。

  • 個人契約・テナントから出る:書面で4週間前。賃料の支払い期間の末日に合わせて出すのが基本(中途半端な日付だと無効になることがある)。
  • 個人契約・大家から出す:継続12ヶ月超なので8週間前
  • 法人契約・どちらから出す場合も:法定の最低週数は付かない。契約書に書いた通知期間がそのまま適用される。

ひとつ注意。個人契約でも、契約書で法定より長い通知期間(たとえば2ヶ月前)が定められていることがあります。その場合は契約書の定めが優先されることがあるので、break条項・notice条項は事前に確認しておくと安心です。

要するに、個人契約は「法律が守る」、法人契約は「契約書が守る」。同じ2年目のperiodicでも、ここを押さえておくだけで、いざ退去や更新のときに慌てずに済みます。会社名義で借りるなら、通知期間・家賃改定・住人の交代の3点を契約書に明記しておく。これだけは忘れないでください。

駐在員の仕事を止めないために

駐在員の仕事を止めないために

北アイルランドの賃貸は、個人契約と法人契約で世界がまるで違います。

個人は法律が守ってくれる代わりに審査が高い壁になり、法人はスピードと信用力が武器になる代わりに、守りは自分で契約書に書き込むしかない。どちらが正解かは、駐在員の人数、滞在期間、急な異動の可能性によって変わってきます。しかしながらベルファストでは賃貸物件が少ないこともありますので、会社の総務部としてはどちらも対応できる準備をしておいた方がいいです。基本は法人契約、ただ大家の住宅ローンでだめなら最悪個人契約もいいかもしれません。

共通して言えるのは「現地のルールを知らないまま進めると、初期費用も時間も余計にかかる」ってこと。デポジットの扱い、Ratesの負担、防衛約款の交渉。このあたりは、現地の事情を知っている人と一緒に進めるだけで、ぐっとラクになります。

弊社はロンドンを拠点に、日系企業や駐在員の方の英国でのお住まい探し・契約サポートをやっています。ベルファストへの拠点立ち上げで「どっちの契約にすべき?」「この特約、入れてもらえる?」みたいに迷ったら、気軽に相談してください。総務の隠れた大仕事、一緒に片付けましょう。

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この記事を書いた人

西島伸一朗のアバター 西島伸一朗 代表 / ディレクター

JTECのディレクターであり創業者。
2007年にロンドンへ移住。アクトンの日系不動産仲介を皮切りに、ノッティングヒルやフィンチェリー、さらにイーリングといった地域で豊富な賃貸仲介経験を積み、独立。Level 3 Certificate in Letting and Managing Residential PropertyとLevel 3 Award in The Sale of Residential Propertyと取得済。
趣味はバドミントン。グーナーであり、Saunaguildの運営者。

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