ロンドンと同じで大丈夫?地方で法人契約で大丈夫?

ロンドンと同じで大丈夫?
山田さん

ロンドンの日系の会社の総務部で働いております。地方に若干の出向者がいますが、賃貸契約がロンドンと比べてうまくいきません。どうしてですか。

ロンドンで何十件も社宅を回してきた総務担当の方ほど、地方赴任の住居手配でつまずく。これ、けっこうあるんですよ。「ロンドンでうまくいったやり方」をそのまま地方に持ち込むと、違法行為に巻き込まれたり、契約自体が成立しなかったりする。

理由はシンプル。

イギリスは「ひとつの国」じゃない、また大家がロンドンとは質が違うということです。

この記事では、ロンドンと地方の市場の違いから、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドそれぞれの賃貸ルール、法人契約と個人契約の損得、そして地方物件を探せる数少ないジャパンデスクがある不動産屋、日系総務部が知っておくべきポイントを実務目線で整理します。

ロンドンの賃貸はもう慣れたんだけど…地方も同じ感覚でいいんですよね?

そこが一番危ないんです。今日はその「罠」を一個ずつ潰していきますよ。

目次

そもそもイギリスは「ひとつの賃貸ルール」じゃない

イギリスは「ひとつの賃貸ルール」じゃない

イギリスは権限移譲(デボリューション)で、賃貸に関する法律がイングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの4つで完全に分かれています。ロンドンの常識はイングランドの法律であって、国境を越えた瞬間に通じなくなる。ここを押さえないと話が始まらないんですよね。

で、市場そのものの性格も違う。ロンドンは家賃が高い一方で投資利回りは約4.29%と低くて、現金で買う層が中心。対して地方都市は家賃が安いぶん利回りが高くて、スコットランドで約6.18%、イングランド北部だと8〜9%台なんてエリアもある。つまり地方はローンを組んで投資する大家が圧倒的に多い、ということ。

「利回りが高い=ローン物件が多い」。これ、あとで出てくる法人契約の話に直結するので、頭の隅に置いておいてください。大家がローンを抱えていると、法人名義での貸し出しを断られるケースが出てくるんです。

スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの「罠」

手付金を払うと「違法」に巻き込まれる

ここが本題のひとつ。3つの国それぞれに、ロンドン感覚でやると事故る落とし穴があります。順番に見ていきましょう。

スコットランド:手付金を払うと「違法」に巻き込まれる

スコットランドの賃貸は「Private Residential Tenancy(PRT)」という、期間の定めがないオープンエンド契約が基本。ここで一番気をつけたいのが、お金の話です。

敷金(家賃の最大2ヶ月分)と初月家賃以外のお金を取ることは、法律で禁止されている。仲介手数料も、内見をキープするための「手付金」「保留金」も、全部アウト。

「違法プレミアム」と呼びます。ロンドンの感覚で「とりあえず押さえで手付を…」とやってしまうと、大家やエージェントが違法行為をしている状態に、こちらが乗っかってしまう形になる。

しかも、払ってしまった違法な手数料は、契約終了後5年までさかのぼって返還請求できるくらい、テナント保護が強い。そう、向こうが悪いんだけど、巻き込まれるのは避けたいですよね。

ウェールズ:書面を14日以内にもらえないと家賃で取り返せる

ウェールズは2022年12月施行の「Renting Homes (Wales) Act 2016」で、契約が「Occupation Contract(占有契約)」という形に置き換わりました。社宅でよく使うのは標準占有契約(Standard Occupation Contract)。

大家には入居から14日以内に「書面明細(Written Statement)」を交付する義務があること。

これを守らないと、テナントは裁判所に申し立てて、最低14日分〜最大2ヶ月分の家賃に相当する補償を受けられる可能性がある。たとえば月家賃が£1,800の物件で大家が書面を出し渋れば、最大£3,600相当が補償対象になりうる、という計算。借りる側にかなり有利なんですよ。

総務としては「14日ルール」を知っておくだけで、入居後の交渉カードになります。

北アイルランド:現金で払ったら「その場で領収書」、なければ刑事罰

北アイルランドは「Private Tenancies Act (Northern Ireland) 2022」。2023年4月から、敷金は家賃の最大1ヶ月分に制限されています。スコットランドの2ヶ月とも違う。ここがまた別ルールなんですよね。

そしてユニークなのが現金払いの扱い。

家賃でも経費でも、テナントが現金で支払ったら、大家は無料で、かつできるだけ速やかに使途のわかる領収書を渡す義務がある。これを怠ると、大家(および領収書を出す役の人)は刑事罰の対象になる。「現金で渡したのに記録が残らない」を防ぐ仕組みで、駐在員のお金のトラブル防止にも効きます。

3国を並べるとよくわかる。デポジットの上限ひとつ取っても、イングランドは家賃5週間分、スコットランドは2ヶ月、北アイルランドは1ヶ月。同じ「イギリス赴任」でも、必要な初期費用の前提がまるで違う。社内の住宅手当の設計をロンドン基準のまま地方に当てると、ズレが出るのはこのへんが原因だったりします。

大事! 大家の「住宅ローン約款」が法人契約を阻むことがある

法人契約ができない大家

駐在員の家を会社名義で借りる「法人契約(Company Let / Corporate Let)」。日系企業ではおなじみですよね。ところが地方では、これがすんなり通らないことがある。

理由は、借りる側じゃなくて大家側の住宅ローンにあります。

イギリスの賃貸物件向けローン(Buy-to-Let、BTL)には、物件は個人向けの法定契約で貸すことを条件にしているものが少なくない。法人は個人じゃないので、会社契約を結ぶと大家がローン規約に違反してしまうおそれがある。さらに会社契約は実質「会社が従業員に又貸し(サブレット)する」形とみなされやすく、ローンの転貸禁止条項にも引っかかりやすい。

そもそも、大家が住居用(residential)ローンのまま貸している物件だと、賃貸自体が原則禁止のことすらある。BTLローンですら、又貸し条項が入っていて事前同意が必要なケースがある。無断でやると、貸し手から「28日以内にやめろ」という通知が飛び、最悪はローン一括返済を求められる。だから地方の個人大家ほど、法人契約に慎重なんです。

救いもあって、HSBCやBM Solutions(イギリスのbuy-to-let(賃貸用物件)専門の住宅ローン会社)など一部の貸し手は会社契約を認めている。ただし契約期間を最長12ヶ月に絞る、審査を厳しくする、といった条件付きが多い。総務としては、物件を押さえる前に「この大家のローンは法人契約OKか」を仲介経由で確認しておくと、契約直前のドタキャンを防げます。普通は法人契約できないです。(そのため特に地方で物件を探す場合には、会社契約でも個人契約でもどちらでも対応できるようにしておくほうがいいです。

Renters’ Rights Act で法人契約が「生存戦略」になったかの?

個人契約でテナントが保護されている様子

2026年以降で一番大きい変化です。イングランドの「Renters’ Rights Act 2025」が2026年5月1日に本格施行されました(一部条文は2025年12月から先行)。これが個人契約と法人契約の損得を、はっきり分けたんですよ。

新しい法律って、テナント有利になったんでしょ?じゃあ個人契約のほうが得なんじゃ…?

この判断は一長一短です。コメントしずらいです。

イングランドの個人契約のほうが、住む本人の保護は手厚くなったんです。ただ「審査を通す」だけの意味では、日本人駐在員には逆風。だから会社契約が効いてくる。順を追って説明しますね。

イングランドの個人契約のハードルが上がった

新法では、新規の個人契約で「前払い家賃」が最大1ヶ月分までに制限されました(押さえのホールディングデポジットは家賃1週間分まで)。これまで日本人駐在員は、イギリスでのクレジットヒストリーや保証人がない弱点を、家賃6〜12ヶ月分の前払いでカバーして審査を突破してきた。その王道が、個人契約では法律で封じられたわけです。地方は物件の母数が少ないぶん、審査で弾かれるとリカバリーが効きにくい。じわっと効く問題なんですよね。

イングランドの法人契約は「規制の外側」にいる

ポイントはここ。法人に貸す契約は、そもそも新法のアシュアード・テナンシー(assured tenancy)に当たらず、消費者保護ではなくコモン・ロー上の商業契約として扱われる。つまり前払い家賃の上限規制も、テナント手数料禁止も、法人契約には「かからない」。会社名義にすれば、従来どおり合法的に6〜12ヶ月分の前払い交渉ができて、企業の資金力で優良物件を押さえられる、ということ。

おまけに、駐在員が帰任・交代しても契約主体(会社)が変わらないから、契約を巻き直さずに通知だけで住人を入れ替えられる。ローテーションの多い日系企業には、これがかなり効きます。要するに、新法のもとでは「住む人の保護は個人契約が手厚いが、借りられるかどうかで言えば法人契約が圧倒的に有利」。この二面性を理解しておくのが大事です。

また法人契約では大家が納得すればですが、一ヶ月の通知でも中途解約ができたりします。もちろん合意すればですが。個人契約は退去に自動的に二ヶ月前通知が必要です。

ただ前の段落でもお伝えしたように法人契約だとそもそも契約できない住宅ローンを抱えた大家が地方には多いことをわすれないでください。ロンドンでは当たり前の法人契約が地方ではできないことが多いのです。

社宅を会社名義で借りても、それ自体は節税にならない

社宅を会社名義で借りても、それ自体は節税にならない

ここはテナント側、つまり御社の税金の話です。まず誤解されやすい点から。

会社名義で借りる法人契約は、前の章で書いたとおり「借りやすさ」では有利ですが、税金の面では節税になりません。ここ、混ざりやすいので最初にはっきりさせておきます。前章の法人契約のメリットは、あくまで審査と物件確保の話。税金とは別の軸なんですよ。

そもそも社員の住居費は、会社がどんな形で負担しても原則ぜんぶ課税対象です。会社名義で借りて社員に住まわせれば「現物給与(Benefit in Kind)」として課税。社員が自分名義で借りて、会社が家賃を肩代わりしたり住宅手当を出したりしても、それは「給与の一部」として課税。形が違うだけで、住居を提供する以上どっちみち税金の網がかかる。だから「法人契約にしたから安くなる」ということはないんです。

現物給与の場合、住まいをタダ同然で提供してもらった社員に所得税がかかり、会社側もP11Dという書類で申告して、給付額にClass 1A国民保険(2025年4月以降は15%)を払う義務がある。課税額の計算にもクセがあって、ざっくり「物件の年間賃貸価値」か「会社が実際に払った家賃」の高いほう。さらに物件の取得価格が£75,000を超えると、その超過分に追加の課税が乗ります。社宅のグレードを上げるほど、社員の手取りに効いてくるわけです。

では税金を本当に軽くするレバーは何か。それが「24ヶ月ルール(detached duty/Temporary Workplace Relief)」です。赴任先が「一時的な勤務地(temporary workplace)」に当たる場合、住居費や交通費が非課税になる可能性がある。しかもこれは契約が法人名義か個人名義かに関係なく、「その赴任が一時的かどうか」で決まる。カギは「最初から何ヶ月の予定か」で、当初から24ヶ月以内の赴任なら社宅費を非課税にできる余地があります。逆に、はなから36ヶ月の予定だと初日からこの特例は使えない。「2年で帰任予定だったのが延びて25ヶ月目に突入」みたいなケースは、予定が変わった時点から課税に切り替わる、という運用です。

細かい差をもうひとつ。

同じ住居支援でも、現物提供(会社が住まいを用意)には社員側の国民保険(NIC)がかからないのに対し、現金の住宅手当だと所得税+社員のNICの両方が引かれる。だから手取りで見ると、現金手当より現物提供のほうが、社員にわずかに有利になりやすいです。

ただ、ここは本当にややこしい。

赴任形態(出向か転籍か)、駐在期間の見込み、物件の条件しだいで結論がガラッと変わります。一般論として地図だけ渡すと、「法人契約そのものは節税ではない/節税のカギは24ヶ月ルール/現物提供は現金手当よりNICぶん有利」の3点。

御社と社員の実際のケースがどうなるかは、必ずUKの税務専門家(税理士・会計士)かHMRCに確認してください。UKの税制は複雑で、僕は税の専門家ではないので、ここで断定はできません。これを知らずに住宅手当を設計すると、あとで社員の手取りがズレて揉めるんですよ。

地方物件を探せるジャパンデスクがある不動産屋

地方物件を探せるジャパンデスクがある不動産屋

正直に言うと、ロンドン以外の地方都市(マンチェスター、エディンバラ、ケンブリッジなど)に、看板を出した日系不動産の実店舗はほぼ存在しません。だから地方赴任では、タイプの違う2種類を使い分けることになります。ひとつは「弊社のような全英を遠隔でカバーするリロケーション専門会社に連絡する、もうひとつは「ロンドンに日本語デスクがあって、地方の直営オフィスと連携できる大手に連絡する。

Knight Frank Savills ジャパンデスクが一定のイギリス地方での物件を紹介できるはずです。ただどちらも英国最大手なので、物件も高額なものが多いようです。

ロンドンの日系不動産屋に連絡しても方には向きません。不動産屋は大家さんからインストラクション(御社からマーケットにだしたいとう許可)があってから不動産を広告にだします。仮に私がリバプールに物件をもっていて、ロンドンの不動産屋に連絡すると思いますか?

結局のところ、地方赴任の住居手配は「ロンドンの劣化版」じゃなくて「別ゲーム」。

法律も、大家の事情も、効く戦略も違う。4ネーションのルールを押さえて、新法下では法人契約を軸に、ローン約款の通る大家を選ぶ。この3点だけでも、現場の事故はかなり減らせます。

地方の一件目で迷ったら、代理内見ができる日系のロケーションエージェントに一度連絡してみてください。JTECPCはイギリス地方の賃貸物件仲介を専門としているサービスになります。ぜひご連絡くださいませ。

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この記事を書いた人

西島伸一朗のアバター 西島伸一朗 代表 / ディレクター

JTECのディレクターであり創業者。
2007年にロンドンへ移住。アクトンの日系不動産仲介を皮切りに、ノッティングヒルやフィンチェリー、さらにイーリングといった地域で豊富な賃貸仲介経験を積み、独立。Level 3 Certificate in Letting and Managing Residential PropertyとLevel 3 Award in The Sale of Residential Propertyと取得済。
趣味はバドミントン。グーナーであり、Saunaguildの運営者。

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