山田さんイギリスの壁に亀裂が入っています。欠陥住宅ですか。
イギリスで不動産を購入・売却する際、建物の欠陥(defects)に関する知識は極めて重要です。
2008年の消費者保護法(Consumer Protection from Unfair Trading Regulations – CPRs)により、物件の良い点だけでなく悪い点も含めた「完全な開示」が義務付けが、不動産屋にもとめられています。
本記事では、イギリスの不動産によく見られる欠陥について、基礎、壁のひび割れ、屋根、湿気、アスベストなどの観点から、専門的な資料に基づき徹底的に解説します。


イギリスの不動産市場における欠陥の重要性と消費者保護


イギリスで不動産の購入者の意識が高まる中、内見時において建物の欠陥に関する質問はふえています。イギリスの不動産屋は、販売の過程で起こりうる問題を予測し、市場評価(market appraisal)を正確に行う必要があります。そのため基本的な建築上の欠陥を理解しておく必要があります。
もちろん、最終的な判断は測量士(surveyor)や建築業者(builder)などの専門家に委ねるべきです。不動産のプロとして、あるいは賢明な購入者として、建築の専門用語(terminology)を理解し、欠陥の兆候を見抜きましょう。
イギリスの不動産に見られる基礎の欠陥と沈下の原因
イギリスの不動産、特に古い物件を見る際、地上レベルの壁にひび割れ(cracks)が見つかることがあります。これは基礎(foundations)が機能不全を起こしている可能性を示唆します。
基礎の欠陥を引き起こす3つの要因
- 沈下(Settlement):建物の荷重によって土壌が下向きに動くこと。新築時にもある程度発生しますが、通常は構造内で吸収されます。しかし、増築部分(extensions)の基礎の深さが既存部分と異なる場合や、ヴィクトリア朝のテラスハウス(Victorian terraces)のベイウィンドウ(bay windows)の下など、基礎が不十分な場所で不均一な沈下が発生すると問題となります。
- 地盤沈下(Subsidence):土壌の状態が悪化または変化することによる下向きの動き。特に粘土質の土壌(Clay soils)は水分の増減で膨張・収縮し、欠陥を引き起こします。
また、砂利質の土壌では、排水管からの漏水が土壌の細粒分を洗い流し、基礎の支持力を奪うことが原因となる場合があります。
沈下(Settlement)と 地盤沈下(Subsidence)との違い
Settlementは家が重くて沈下するのに対し、Subsidenceは土が縮んだり逃げたりして支えがなくなる状態です。
- ヒービング(Hogging/Heave):建物下の土壌の水分量が増加し、地面が膨張すること。これは基礎周辺の土壌収縮や、18世紀の物件に見られるような過度な荷重設計によっても引き起こされます。
樹木と基礎の欠陥
イギリスの不動産では、庭木の管理も重要です。樹木の根が土壌の水分を吸収し、地下水位を下げることで粘土が収縮し、建物の角に沈下を引き起こすことがあります。逆に、木を伐採すると水分量が戻り、土壌が膨張(リバウンド)して新たな問題を引き起こす可能性もあるため注意が必要です。
アンダーピニング(Underpinning)による修復


深刻な基礎の欠陥がある場合、既存の基礎の下に新しい基礎をより深く構築する「アンダーピニング」が必要になることがあります。この言葉は購入者に不安を与えがちですが、専門業者によって適切に施工され保証が付いていれば、その不動産は以前よりも良い状態になっており、購入を躊躇する理由にはなりません。
不動産の価値を下げる壁のひび割れと欠陥の種類


イギリスの不動産内見時に壁の膨らみ(bulges)やひび割れ(cracks)欠陥の可能性があります。壁のひび割れの方向は、その原因を特定する重要な手がかりとなります。
- 水平のひび割れ(Horizontal cracks):壁に埋め込まれた金属(まぐさ:Lintelや壁用タイ:Wall Tie)の錆びなど、垂直方向の動きに関連して発生します。
- 垂直のひび割れ(Vertical cracking):熱や湿気による膨張・収縮など、水平方向の動きに関連します。
- 対角線のひび割れ(Diagonal cracking):ドアや窓の開口部周辺で見られ、まぐさ(lintels)やアーチの欠陥に関連することが多いです。
イギリスの不動産特有の壁の欠陥
- 熱・湿気の動き:南向きの長い壁などで発生しやすく、防湿層(DPC)の上でレンガ積み(brickwork)が滑る現象が起きることがあります。現代では伸縮目地(expansion joints)で対策されています。
- 壁用タイの腐食(Wall Tie Failure):キャビティウォール(中空壁)の内側と外側を繋ぐ金属製のタイが錆びて膨張し、水平のひび割れを引き起こします。これはステンレス製のタイへの交換が必要です。
- まぐさ(Lintel)の劣化:窓上の木製まぐさが腐敗したり、金属製まぐさが錆びたりすると、支持力を失い、開口部の上に対角線のひび割れが生じます。
- 横方向の不安定性(Lateral Instability):テラスハウスの端にある切妻壁(gable walls)が、床や屋根の構造と適切に結合されていない場合、外側に膨らむ(bulge)ことがあります。この場合、壁を床根太(joists)にストラップで固定する補強が必要です。
- 偏心荷重と屋根の広がり(Roof Spread):屋根の垂木(rafters)が適切に固定されていない場合、屋根の重みが壁を外側に押し出し、壁上部が傾く原因となります。


イギリスの屋根によくある欠陥とメンテナンスの重要性


屋根は雨や雪から建物を守る最初の防衛線です。イギリスの不動産における屋根の欠陥は、天候だけでなく、施工不良やメンテナンス不足によっても発生します。
屋根で故障が多発する箇所


勾配屋根(Pitched Roofs)の欠陥
- スレートや瓦のズレ:釘の錆び(nail sickness)によりスレートが滑り落ちることがあります。下葺き材(underfelt)がない古い物件では、これが直接的な雨漏りにつながります。
- 接合部の不具合:棟(ridge)、谷(valley)、煙突(chimney)周りの雨押さえ(flashing)は、雨水が浸入しやすい弱点です。特に谷部分の鉛ライニングの劣化には注意が必要です。
平屋根(Flat Roofs)のリスク


イギリスの不動産、特に増築部分やガレージに見られる平屋根は、勾配屋根(寿命60-80年)に比べて寿命が短く(15-30年)、以下の欠陥が生じやすい傾向があります。
- 水たまり(Ponding):デッキのたわみにより水が溜まる現象。
- ブリスター(Blistering):フェルト層に閉じ込められた水分が熱で膨張し、気泡ができる現象。
- 漏水:接合部の剥がれや、日光による表面の硬化・ひび割れ。
平屋根は水が流れにくいため、わずかな欠陥でも深刻な水漏れにつながります。
勾配屋根の方が優れていそうですが、それでも平屋根がある理由。
- 建設コストと工期を抑えやすい(構造が単純で材料使用量が少ない)。
- 高さ制限や景観規制に対応しやすい(都市部や増築で有利)。
- 現代防水材により実用性能が確保可能(EPDM・GRP等)。
不動産の天敵である湿気


湿気(Damp)不動産において最も一般的かつ厄介な欠陥の一つです。湿気は建物の劣化だけでなく、居住者の健康にも悪影響を及ぼします。
湿気の主な4つの種類
- 浸透湿気(Penetrating Damp):屋根の欠陥、雨樋の詰まり、外壁の劣化、窓周りの隙間などから、雨水が建物内部に侵入することです。特に西向きの壁など、風雨にさらされる場所で発生しやすくなります。
- 上昇湿気(Rising Damp):地面の水分が毛細管現象で壁を上昇する現象です。壁に防湿層(DPC)がない古い物件や、DPCが破損している場合、あるいは地盤面が高すぎてDPCを乗り越えてしまっている(ブリッジ現象)場合に発生します。DPCは地面から最低150mmの高さにある必要があります。
- 結露(Condensation):現代の気密性の高い住宅で換気が不足した場合に発生リスクが高まります。キッチンや浴室での活動により発生した水蒸気が、冷たい壁や窓で冷やされて水滴となります。カビ(mould)の発生原因となり、健康被害や木材腐朽を引き起こします。
- 配管からの漏水:給水管や排水管からの漏れ。発見が遅れると、床下の湿気や基礎の沈下につながる可能性があります。


湿気への対策とメンテナンス
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上昇湿気に対しては、壁への薬剤注入(chemical injection)による防湿層の再構築が一般的です。結露に対しては、適切な断熱と換気(特に浴室やキッチンの換気扇)が重要です。
物件の柱、梁を侵食する菌 湿腐れ(Wet Rot)と乾腐れ(Dry Rot)


- 湿腐れ(Wet Rot):高い湿度(50%以上)で発生し、木材を柔らかくスポンジ状にします。原因となる湿気を取り除き、木材を交換・防腐処理すれば解決します。
- 乾腐れ(Dry Rot):より深刻な欠陥です。湿度20%以上で換気が悪い場所で発生し、菌糸を伸ばしてレンガや漆喰を貫通し、建物全体に広がります。感染した木材や周辺の壁を広範囲に除去・滅菌する必要があり、根絶が困難です。
日本の左官とは何?
漆喰(Plasterer)、モルタル(Lime mortar)などを用いた塗り仕上げをする人。イギリスでは外装を塗る人をRendererという。ビルダーさんがイギリスではやるが、lime plaster specialistが得意な人もいる。
害虫(Wood Boring Beetles)による欠陥


イギリスの不動産では、以下の甲虫による被害が見られます。
- カミキリムシ(Furniture Beetle):英国住宅で最も一般的に見られる木材害虫です。主に針葉樹(softwoodの内部を食害し、床根太(floor joists)、階段、家具、屋根裏の木材などに被害を与えます。1-2mmの楕円形の脱出孔を開けます。
- シバンムシ(Death-watch Beetle):主に古い英国住宅に見られる木材害虫で、特に湿気の多い環境を好みます。
幼虫がオークなどの硬木(hardwood)の内部を長期間食害し、梁(beams)や根太(joists)といった構造材の強度を低下させます。約4mmの円形の穴を開けます。 - 家屋長角甲虫(House Longhorn Beetle):イギリスの北西サリー(Surrey)地方に特有の大型の甲虫で、針葉樹の構造材に甚大な被害を与えまこれらの対策として、殺虫剤の注入などが行われます。幼虫が屋根裏や床下の構造材(垂木:Rafter、梁:Beam、根太:Joistなど)の内部を長期間にわたり食害し、外見上は健全でも内部強度を著しく低下させます。
- バークボアラー甲虫(bark borer beetle):キクイムシ(Scolytinae)の仲間。木の幹に小さな穴が開き、そこから小麦粉のような細かい木屑が排出されます。樹皮(bark)しか食べないため、ほとんど問題を引き起こしません。
2000年以前のイギリス不動産とアスベストのリスク


2000年以後のイギリスの不動産はアスベスト(Asbestos)は使っていません。昔の古い物件をイギリスで購買するときに注意が必要になります。
不動産取引におけるアスベストの注意点


アスベストは、繊維を吸い込むと中皮腫など致命的な病気を引き起こす可能性があります。しかし、状態が良く損傷していない場合は、そのままにしておくことが推奨されます。除去が必要な場合は、HSE認定の専門業者に依頼しなければなりません。
特にフラット(マンション)の売買では、共有部分のアスベスト登録簿(Asbestos Register)の確認が求められることがあります。


イギリス不動産の欠陥に関するまとめ
イギリスの不動産を扱う上で、欠陥の知識は不可欠です。本記事で解説したポイントをまとめます。
- 基礎の欠陥は、壁のひび割れで発見されることが多く、沈下やヒービングが原因です。
- 壁のひび割れは、方向によって原因(熱膨張、まぐさの失敗、壁用タイの腐食など)が異なります。
- 屋根のメンテナンス不足は、スレートのズレや雨樋の詰まりにより、雨漏りの直接的な原因となります。
- 湿気(浸透、上昇、結露)は、建物の構造と居住者の健康を害する主要な欠陥です。
- 湿気を放置すると、乾腐れや害虫被害など、木材の深刻な劣化を招きます。
- 1999年以前の物件にはアスベストが含まれている可能性があり、適切な管理または専門家による除去が必要です。
イギリスで不動産を購入・売却する際は、これらの欠陥の兆候を見逃さず、必要に応じて専門家の調査(Survey)を受けることが、資産価値を守る最良の手段となります。
イギリスで不動産購入を考えている方はJTECにご相談くださいませ。







