イギリス不動産構造—土台基礎から屋根、そして最新工法まで

イギリス不動産の構造-土台から
山田さん

日本で不動産屋をしていたのですが、イギリスの家に関する不動産の用語と一致しません。教えてください。

イギリスの不動産市場で、本当に頼りにされる不動産屋になるためには、ポータルサイトの相場感や「不動産はロケーションがすべてです!」といった一般的に業界で言われるクリシェだけでは信頼される不動産員になれません。

イギリスのその建物がどのような地盤の上に立ち、どのような壁・床・屋根で構成されているのか。
つまり、建物の解剖学をどこまで理解しているかが、プロとアマチュアを分ける決定的なポイントになります。

この記事では、イギリスの住宅建築に携わる人のために建築の部品の一つ一つを整理しました。

現場の不動産屋の目線で押さえておきたいポイントも織り込んでいます。イギリスの不動産に興味がある人、イギリスで測量士や、ビルダー、不動産の勉強をされている方にも参考になると思いますが、主に不動産売買をしている人のための内容になっています。


目次

建物の「生命線」― 基礎(Foundations)

どれだけ見た目が立派な建物でも、基礎が弱ければ安心して長く住むことはできません。基礎(Foundations)は、建物の安全性と寿命を決める最重要部分です。

1. 基礎の上にかかる荷重(Loading)の種類

基礎の仕事はシンプルで、「建物の重さを、地盤に無理なく伝えること」です。ここでいう重さには、主に次の三つがあります。

固定荷重(Dead Load)

壁・床・屋根といった建物そのものの重量。建物が完成した後は基本的に変化しません。

積載荷重(Live Load)

人が住むことで加わる重さです。居住者、家具、家電、荷物など。日々の生活によって増減します。たとえば屋根裏部屋のロフトコンバージョン(Loft conversion)を行う場合、「新しい床・壁・屋根裏階段などの固定荷重」+「人や家具といった積載荷重」が一気に増えます。既存の基礎がそこまでの荷重を想定しているかどうかの確認は、欠かせません。

ロフトコンバージョン(Loft conversion)
もともと屋根裏の物置だった所に部屋を作るロフトコンバージョン。二階建ての家が、3階建てに増築されると積載荷重(Live Load)が基礎(Foundations)にかかる。

風荷重(Wind Load)

強風によって壁を押す力(正圧)と、屋根を持ち上げるように働く力(負圧)のことです。沿岸部や高層建物では無視できない要素です。

これらの三つの荷重を、地盤が無理なく支えられるように設計されるのが家の基礎(Foundations)です。

2. 地盤条件(Ground Conditions)によるリスク

英国は地域ごとに地質が大きく異なります。基礎の設計では、表面の土ではなく、その下の「下層土(Sub-soil)」が何かが重要になります。

粘土(Clay)の問題

粘土質

英国で最もトラブルが多いのが粘土質の地盤です。粘土は水を含むと膨らみ、乾燥すると縮みます。
暑く乾いた夏が続くと水分を失い、地盤が収縮します。

基礎の深さ

一般的に、基礎は地表から約1m以深に設けられます。理由は三つあります。

霜(Frost)の影響がなくなる。地下600mm以深は凍結しないとされています。乾燥・湿潤の繰り返しによる影響を受けにくいです。建築基準上の最低深さは約750mmですが、実務上は安全上、1m程度がよく採用されています。

その他の地盤の注意ポイント

植栽(Vegetation)
イタドリ
イタドリ(Japanese knotweed)は、コンクリートや舗装の
既存の隙間や弱点を利用して成長し、それらを拡大させることで建築物に被害を及ぼす可能性があります

大きな樹木の根は地中深くまで伸び、水分を吸い上げます。特に粘土質土壌では、根の影響による地盤の収縮に注意が必要です。イギリスで日本原産のイタドリが発生し、問題になっています。

埋立地(Filled Ground)

過去に埋め立てられた土地では、汚染物質やメタンガスなどのリスク、埋戻し材の不均一さによる不同沈下などが問題になります。専門調査が必要なケースも少なくありません。

3. 代表的な基礎作りの種類(Types of Foundation)

物件の年代・構造・地盤状況などに応じて、採用される家を乗せる基礎は変わります。

布基礎(Strip Foundations)

布基礎(Strip Foundations)

英国の住宅で最も一般的な伝統的基礎です。耐荷重壁の下にコンクリートの帯(Strip)を連続して打設し、4階建て程度までの住宅に広く使われています。

トレンチフィル(Trench Fill)

トレンチフィル(Trench Fill)

粘土などの地盤で多く採用される方式です。溝(Trench)を細く深く掘り、そのほとんどをコンクリートで満たします。レンガ職人が深い溝の中で作業する必要が少ないため、安全で、施工スピードが早いです。

べた基礎(Raft Foundations)

べた基礎(Raft Foundations)
べた基礎(Raft Foundations)丈夫だが、時間もお金もかかる。

採掘跡や軟弱地盤といった、局所的に支持力がばらつきやすい土地で使われます。
建物の底面全体を一枚の鉄筋コンクリート板(Raft)で支え、荷重を広く分散させることで、不同沈下のリスクを減らします。

杭基礎(Piled Foundations)

杭基礎(Piled Foundations)

支持層(硬い地盤)が地表からかなり深い位置にある場合、コンクリートや鋼の杭(Pile)を打ち込み、その上に地中梁(Ground beam)を渡して建物を支えます。高層建物や非常に軟弱な地盤では一般的な手法です。

支持層が2メートル以上の場合は、杭を打ち込んで地中梁で支えるこの杭基礎(Piled foundation)が採用されます。

階段状基礎(Stepped Foundations)

階段状基礎(Stepped Foundations)

斜面地に建物を建てる場合、同じ高さにそろえず、階段状に段差をつけながら基礎を設けます。勾配に合わせて荷重を安定させるための工夫です。


床構造(Floors)と住み心地

内覧時、買主が直感的に気にするポイントの一つが「床」です。
水平かどうか、冷たくないか、湿気やきしみがないか。こうした感覚的な要素は、あなたが不動産員なら不動産の成約(ディール)に地味に効いてきます。

英国住宅の1階(Ground floor)の構造は、大きく分けて次の二つです。

1. 中実床(Solid Ground Floors)

Solid Ground Floors

地面の上に直接コンクリートを打設するタイプです。現代の新築住宅では一般的な構造です。

典型的な構成は、下記になります。

中実床(Solid Ground Floors)の材料の敷き方

順番は地面に向けて下記になります。

  1. 砕石・ガラなどのハードコア
  2. 砂による目潰し層(Blinding)
  3. 防湿膜(DPM:Damp-Proof Membrane)
  4. コンクリートスラブ
  5. スクリード(仕上げ用モルタル)や床仕上げ材

防湿膜(DPM)の役割


地中から上がってくる湿気を床に透過させないためのビニールシートです。壁に設けられる防湿層(DPC:Damp-Proof Course)と一体的に連続していることが理想で、ここが切れていると、床や壁の「上り湿気」の原因になります。

DPM 防湿膜
DPMがあると地下からの湿気が防げる。

硫酸塩攻撃(Sulphate Attack)の話

1950〜60年代頃に建てられた一部住宅では、床下のハードコアに安価な鉱山副産物(Colliery shale コリアリーシェール:炭鉱頁岩:たんこうけつがん)が使われました。これに含まれる硫酸塩が水分と反応し、コンクリートを膨張させ、床の盛り上がり、外壁のひび割れを引き起こすことがあります。現在はこの材料の使用は禁止されていますが、古い物件を見るときには、頭の片隅に置いておきたい知識です。

硫酸塩攻撃

2. 吊り木材床(Suspended Timber Floors)

吊り木材床

地面から少し浮いた位置に木材の構造体を組み、その上に床板を張る構造です。ヴィクトリアンやエドワーディアンのテラスハウスなど、古い住宅に多く見られます。

床の構造のイメージ

床の構造
  • 地面の上に小さなレンガの支持壁(Sleeper walls)
  • その上に木製の根太(ねだ:Joists)を渡す
  • 根太(ねだ:Joist)の上に床板を張る
まとめ:DPMとDPC違いの比較表
特徴DPM (防湿膜)DPC (防湿層)
主な場所 (Floor) (Wall)
形状シート状 (Membrane/Sheet)層・帯状 (Course/Strip)
主な材料プラスチックシートプラスチック、エンジニアリングレンガ、金属シートなど
役割地面から床への湿気遮断壁内の湿気上昇(または下降)の遮断
関係性DPMは壁のDPCと接続していなければならないDPMと連携して建物の底面を密閉する
DPC (防湿層)
壁に入れるDPC (防湿層)

Damp-proof course(DPC)を外部地盤面より最低150 mm上に設けるのは、「地面由来の水分が壁体に到達しない安全距離」を物理的に確保するためです。

床下換気の重要性

床下は湿気がこもりやすいため、外壁面に「換気用レンガ(Airbricks)」を設置し、空気が通り抜けるようにしておく必要があります。換気口が土や植栽、外構で塞がれていると、ドライロット/ウェットロット(Dry / Wet rot)、木材の腐朽につながる可能性があります。

換気用レンガ(Airbricks)
換気用レンガ(Airbricks)

断熱の課題と改善

古い物件では、根太の間に断熱材が入っていないケースが多く、床が冷たい、すきま風が気になるといった不満につながります。現代では、根太の間にミネラルウールなどの断熱材を追加することで、快適性が大きく改善できます。

3. 上の階の床について

上階の床は一般的に木造の梁・根太で構成されますが、その支え方には年代で違いがあります。

以前は外壁に根太を直接埋め込む工法が主流でしたが、壁内の湿気の影響で腐りやすいという問題がありました。

現在は亜鉛メッキ鋼板製のジョイストハンガー(Galvanised metal joist hangers)を使って、根太を壁に固定する方法が一般的です。腐朽リスクの軽減と、施工の安定性が理由です。

亜鉛メッキ鋼板製のジョイストハンガー
亜鉛メッキ鋼板製のジョイストハンガー(Galvanised metal joist hangers)

壁(Walls)― 建物の「外皮」としての役割

イギリスの建築における壁は、多湿な気候を防ぐ二重構造(中空壁)で断熱性を確保しつつ、赤煉瓦や石材を用いて英国特有の美しい景観を作り出しています。さらに地面からの湿気を防ぐDPC(防湿層)と連携して建物の耐久性を高める、機能と美観を兼ね備えた重要な役割を担っています。

まず壁が建物を支えるためのものか、そうでないかの違いについて確認します。その壁を将来的に壊して拡張できるかどうかもこれがわかると参考になります。

1. 壁の種類と役割

耐荷重壁と非耐荷重壁

耐荷重壁(Load-bearing walls)

上からの荷重(屋根・上階など)を支える壁。構造の要となる部分です。

非耐荷重壁(Non load-bearing walls)

室内の間仕切りなど、主に空間を区切るだけの壁です。改装時に撤去できるかどうかの判断に関係してきます。

外部中空壁(Cavity walls)

外部中空壁
図1

現代の住宅で一般的な外壁構造です。外側の「外葉(Outer leaf)」と内側の「内葉(Inner leaf)」の間に空洞(Cavity)を設け、雨水の浸透を防ぎ、断熱性能を高めます。

Outer leafは長手(Stretcher bond)で組まれていますね。後半にレンガの組み方があります。要チェック!

2. レンガ・ブロックの種類

英国の外壁はレンガ造が多く、その性質を知っておくと、現場での見立てに役立ちます。

化粧レンガ(Facing bricks)

化粧レンガ(Facing bricks)

色や仕上げにこだわった、見た目重視のレンガ。外装に使われることが多いタイプです。

普通レンガ(Common bricks)

普通レンガ

外観はやや劣るものの、安価なため、見えない部分や内部に使われます。

エンジニアリングレンガ(Engineering bricks)

エンジニアリングレンガ(Engineering bricks)

高密度で非常に強く、吸水率が低いのが特徴です。防湿層(DPC)周りや土台部分など、水にさらされやすい箇所に使われます。代表例が「スタッフォードシャー・ブルー(Staffordshire Blue)」と呼ばれる濃紺色のレンガです。

「スタッフォードシャー・ブルー(Staffordshire Blue)」と呼ばれる濃紺色のレンガ
Staffordshire Blueのエンジニアブロック:
スタッフォードシャー地方で伝統的に生産されてきた、独特の青灰色の粘土製品

コンクリートブロック(Concrete blocks)

コンクリートブロック

施工スピードが早く、断熱材との組み合わせにも適しているため、中空壁Cavity wall の内葉としてよく使用されます。上の図1を参照。

3. レンガの積み方(Bond)から分かること

レンガの向きの名称

レンガの見え方から、その壁が中実か中空かを推測できる場合があります。

中実(中身が詰まっている壁)Solid Wall 

中空(隙間がある壁)Cavity Wall 

長手(Stretcher)

長手 stretcher bond

レンガの長い方の側面のことです。 現代の住宅における中空壁(キャビティウォール)の外壁は、すべてのレンガがこの長手面を見せて積まれる「長手積み(Stretcher bond)」が一般的です。

小口(Header)

header bond 小口

レンガの短い方の端面(断面)のことです。 壁の厚みを持たせるため、または装飾的な目的で表に見えるように配置されます。

イギリス積み(English bond)

イギリス積みEnglish bond

「小口(Header)だけの段」と「長手(Stretcher)だけの段」を交互に積み上げる方式です。この積み方が見られる場合、通常は壁の厚さが約225mm(9インチ)ある中実壁(ソリッドウォール)であることを示唆しています。

フランドル積み(Flemish bond)

フランドル積み(Flemish bond)

同じ段(コース)の中で、小口(Header)と長手(Stretcher)を交互に並べていく方式です。 イギリス積みと同様に、通常は中実壁(ソリッドウォール)であることを示唆しています。ロンドンでは一番よく見かける。

フランダース地方(現在のベルギー西部からオランダ南部、フランス北部にかけての地域)で発達し、そこからイギリスなどを経由して世界に広まりました。

簡単なレンガ見分け方のまとめ(イギリスの住宅)

  • 壁に「小さい面(小口)」が見える
    • (イングリッシュ、フレミッシュ、ヘッダー(小口)など)
    • 古い・中実壁(Solid)
    • 家の内部が寒い可能性が高い
  • 壁が「長い面(長手)」だけでできている
    • (ストレッチャーボンド)
    •  新しい・中空壁(Cavity)・暖かい可能性が高い (裏側の壁とは鉄の留め具(タイ)で繋がっているため、レンガで繋ぐ必要がないから。)

4. 壁を支える細かい部材について

下記はイギリスの建築に必要な細かい部品についてまとめてみます。

壁タイ(Wall ties)

壁タイ

中空壁の外葉と内葉をつなぎ、二枚の壁が一体として働くようにする金属製のタイです。
古いタイプの壁タイが錆びると、外壁の膨らみやひびの原因になります。

ラテラル・レストレイント(Lateral restraints)

ラテラル・レストレイント

床や屋根の構造と外壁を金属ストラップで固定し、壁を水平に(ラテラルに)保ち外側に倒れないようにするためのものです。

まぐさ(Lintels)

まぐさ

窓やドアの開口部の上には、上部の荷重を支える梁(Beam)が必要で、これがまぐさ(Lintel)です。

空洞受け皿(Cavity trays)

空洞受け皿

壁の空洞(キャビティ)内に侵入した湿気を捕らえ、建物の内部に到達する前に外部へ排出することです。 内部への浸水やそれに伴う湿気(結露や雨水の浸入)による内部の損傷や腐食、カビの発生を防ぐための重要な防水部品です。 

水抜き穴(Weepholes)

水抜き穴


中空壁の場合、雨水がまぐさ上部に溜まって室内側へ回り込まないよう、Weepholesを設けることが重要です。

5. 木造枠組壁(Timber frame)

木造枠組壁

レンガ造に見える外観でも、実は内部構造は木造フレームというケースも増えています。特徴は、軽量で基礎への負担が少ない、工場生産部分が多く、工期が短い、高い断熱性能を確保しやすいなどが挙げられます。

重要な2種類のシート

木造建築以外にもVapour barrierとBreather membraneは使いますが、木造は必須で使う必要があります。

「membrane (メンブレン)」は英語で膜を意味する専門用語です。

防湿膜(Vapour barrier)
防湿膜

断熱材の室内側に設置し、室内の湿気が壁体内に入り込まないようにする膜です。

透湿防水シート(Breather membrane)
透湿防水シート

外側に張るシートで、外部からの雨水は防ぎつつ、内部からの水蒸気は逃がす役割を持ちます。

6. 外装材(Cladding)と ACMパネルの問題

ACM

高層住宅では、外装材の選択が安全性に直結します。Aluminium Composite Materialパネルは、2017年のグレンフェル・タワー火災で注目された材料です。アルミ板の間に可燃性のコア(ポリエチレン等)を挟んだ構造で、外装パネルの裏側にできる空気層が「煙突効果」を生み、火災を一気に広げました。


現在、高層建物では厳しい規制の対象となっており、購入検討時には外装材の種類・改修履歴の確認が不可欠です。


窓とガラスの基本

窓は、採光・換気という機能だけでなく、熱の出入りや防音にも大きく影響します。内覧時の印象にも直結する部分です。またいろんなファンクションがある窓は、メーカーによってちゃんと動かなかったりします。ビクトリアンの古い上下窓はペイントのため、固定されて開閉不能な場合もあります。

1. 窓の代表的な形式

開き窓(Casement)

開き窓

横開きのもっとも一般的なタイプ。英国ではよく見かけます。

サッシ窓(Sash)

サッシ窓

上下にスライドさせる伝統的なスタイル。ヴィクトリアンやジョージアン様式の住宅でおなじみです。

ピボット窓(Pivoting)

ピボット窓

中央の軸を中心に回転する窓。換気の調整がしやすいタイプです。

チルト&ターン(Tilt and Turn)

チルト&ターン

内倒し(Tilt)と内開き(Turn)の両方ができる多機能窓。清掃や換気に便利です。外開きの窓が歩道に面している場合、開けたときに通行人にぶつかるリスクがあるため、一階の配置には注意が必要です。

2. ガラス(Glazing)の種類と役割

二重窓(Double glazing)

二重窓(Double glazing)

2枚のガラスの間に空気層またはガスを封入したもの。熱損失の低減(断熱性能の向上)、結露リスクの低減、防音性能の向上、といったメリットがあります。

uPVC(unplasticised Polyvinyl Chloride :非可塑化ポリ塩化ビニル)製のフレームを使用した複層ガラスが英国の住宅で最も一般的な窓仕様の一つです。

安全ガラス(Safety glass)

安全ガラス

強化ガラスや合わせガラスなど、割れたときの安全性に配慮したガラスです。
特に次のような場所では使用が求められます。

3. FENSA と建築規制

FENSAのロゴ

2002年4月以降、窓の交換は建築規制(Building Regulations)の対象となっており、断熱基準などを満たしている必要があります。

FENSA証明(FENSA Certificate)とは、イングランドおよびウェールズにおいて行われた「窓・外部ドアの交換工事」が、Building Regulations(建築基準)に適合していることを示す公式証明書です。FENSA登録業者が施工した場合に発行される適合証明です。


物件売却時にFENSA証明がない場合は、Building Control による承認書類が代わりに必要です。物件を売る立場の不動産屋としては、早い段階で書類の有無を確認しておくと、トラブル回避につながります。

Building Control(ビルディング・コントロール)とは、イギリスにおいて「建築工事が国の定めた基準(Building Regulations)を満たしているか」を検査・監督・承認する公的機関(または認可された民間機関)のことです。


屋根― 雨風から家を守る最前線

屋根は、建物を外界から守る最前線です。雨漏りは買主が最も嫌う不具合の一つであり、査定上も大きなマイナス要因になります。

1. 勾配屋根(Pitched roofs)

勾配屋根

勾配(Pitch)があることで雨水が流れ、屋根全体の寿命にも影響します。三角屋根のことです。

主な構造タイプ

垂木+母屋構造(Purlin and rafter)
垂木+母屋構造

古い住宅でよく見られる構造で、屋根裏空間が比較的広いのが特徴です。ロフトコンバージョン(屋根裏部屋増築)に向いているケースが多いです。

  • 垂木(たるき / Rafter): 屋根の勾配(坂)を作り、屋根材(瓦など)を直接支える斜めの部材。
  • 母屋(もや / Purlin): 斜めに架かる垂木がたわまないよう、その下で横方向から支える部材。
  • 方杖(ほうづえ / Knee Brace): 柱と梁の直交部分を斜めに繋いで固定し、地震や風による歪みを防ぐ補強部材。
  • 柱(はしら / Column): 屋根や梁の荷重を垂直に受け止め、それを下の土台や基礎へ伝える部材。
トラス垂木(Trussed rafters)
トラス垂木

細めの木材を三角形に組み合わせ、「メタル・コネクター・プレート(Metal connector plates)」と呼ばれる金属のプレート(剣山のような爪がついた金具)で接合して作られます。メリットは低コスト・短納期で、強度もあります。デメリットは屋根裏空間に「W字」の木材が張り巡らされているため、そのままでは人が歩いたり物を置いたりするスペースがありません。ロフトコンバージョンに不向きになります。

屋根裏の換気(Ventilation)
屋根裏の換気

断熱をしっかり行った屋根では、屋根裏の換気を確保しないと、暖かく湿った室内の空気が屋根裏で冷やされ、結露(Condensation)を起こします。結露が続くと、木材の腐朽、金属金物のサビを招き、長期的な構造リスクにつながります。

Pitched roofsの屋根材(Roof coverings)

イギリスで屋根に使われる材料は以下のようなものがあります。

スレート(Slate)
スレート(Slate)
スレートは自然に形成される変成岩でワイヤーソーなどで切り出されます。

天然石で非常に耐久性が高く、見た目も上品です。コストは高めですが、伝統的なタウンハウスなどで重宝されています。

粘土・コンクリート瓦(Clay / Concrete tiles)
粘土・コンクリート瓦(Clay / Concrete tiles)


平瓦、インターロッキングタイプなど形状はさまざまです。価格・耐久性・デザインのバランスが取れており、郊外の住宅開発で広く使われています。

茅葺き(Thatch)
茅葺き(Thatch)


伝統的で非常に魅力的な外観ですが、火災リスク、メンテナンスコストが非常に高く、保険料も高額になる傾向があります。

2. 平屋根(Flat roofs)

平屋根の屋上。奥が見える。

「フラット」と呼ばれますが、実際には水はけのためにわずかな勾配(2〜10度程度)が付けられています。ガレージや増築部分の屋根に多く見られます。

主な材料と特徴

瀝青フェルト:れきせいフェルト(Bituminous felt)
瀝青フェルト

もっとも一般的で比較的安価ですが、寿命は10〜15年程度と短めです。天然アスファルトやタール、ピッチなどの繊維を圧縮してシート状にしたもの。

Bituminous(ビチューミナス)は、瀝青(れきせい)に似たタール状のという形容詞で、アスファルトやコールタールのような黒くて粘り気のある物質や、それに含まれる性質を指します。

アスファルト(Asphalt)
アスファルト

砂利などを混ぜた舗装用アスファルト。フェルトより耐久性があります。

金属シート(:Lead, 亜鉛:Zinc,銅:Copper など)
金属シート

初期費用は高いものの耐久性に優れ、鉛などは複雑な形状の水切りにも使われます。銅屋根は時間とともに緑青が付き、独特の風合いを楽しめます。

GRP(glass reinforced plastic:ガラス繊維強化プラスチック)
GRP(ガラス繊維強化プラスチック)

継ぎ目のない一体成形が可能で、防水性が高い現代的な素材です。

グリーンルーフ(Green / Turf roofs)
グリーンルーフ

屋根を植物で覆う工法で、断熱性向上、雨水流出抑制、屋根材自体の長寿命化といったメリットがあります。一方で、水分を含む土と植栽の重さが加わるため、構造的な検討・補強が必須になります。

4. 屋根の雨水の対処方法

水切り(Flashings)

水切り 天窓の周辺、煙突周り、壁と屋根の間など水が漏れやすい

煙突周り・天窓の周囲・壁と屋根の取り合いなど、雨が入り込みやすい箇所に取り付ける金属板のことです。
柔らかく加工しやすい鉛(Lead)がよく使われます。

谷(Valleys)

屋根の谷

屋根の二つの面が交わってV字になっている部分で、雨水が集中して流れます。ここも鉛や亜鉛でライニングされ、雨水を樋へ導きます。谷部分の劣化は雨漏りの定番の箇所なので、内覧時にも目を配りたいポイントです。


非伝統的住宅と現代的工法(MMC)

1. 非伝統的住宅(Non-traditional housing)

非伝統的住宅

戦後の住宅不足と、資材・職人の不足を背景に、プレハブ構造、工場生産パネルなどの「非伝統的」工法の住宅が数多く建てられました(Airey, Unity, Wates などが代表的なタイプ)。

Airey, Unity, Watesとは非伝統的住宅(Non-traditional housing)で使った家を建てる工法のこと。

こうした物件の中には、断熱性能が極めて低い、コンクリートパネルの鉄筋が腐食しやすい、構造的欠陥が判明している、などの理由で、「1985年住宅法(Housing Act 1985)」により「欠陥住宅(Defective)」として指定されているものがあります。

その場合、認定された改修スキーム(Rehabilitation scheme)を完了していない物件は、住宅ローン(Mortgage)の承認が非常に難しいのが実情です。


不動産員としては、タイプ名・構造形式を把握し、住宅ローンの取り扱い可否を事前に確認する必要があります。

2. 現代的工法(Modern Methods of Construction / MMC)

現代的工法

近年、環境負荷の低減、建設コスト・人件費の高騰、職人不足といった背景から、「オフサイト建設(Off-site construction)」が注目されています。

代表的な方式には次のようなものがあります。

モジュール工法(Volumetric modular)

モジュール工法

工場で箱状のユニット(部屋単位)を製造し、現場で積み上げて組み立てる方式です。

SIPs(Structural Insulated Panels)

SIPs

断熱材を合板などで挟んだパネルを用いる工法。高い断熱・気密性能を比較的容易に確保できます。

ICF(Insulated Concrete Formwork)

Insulated Concrete Formwork

発泡スチロールなどの型枠を積み上げ、その中にコンクリートを流し込む方式。型枠自体が断熱材として残るため、壁がそのまま高断熱になります。

MMCのメリットとデメリット

メリット
  • 現場工期の短縮(最大約50%短縮とされるケースも)
  • 工場管理による品質の安定
  • 現場廃棄物の削減、CO₂排出量の削減
  • 高い断熱・気密性能(光熱費削減につながる)
デメリット
  • 大きなモジュールは輸送サイズに制約がある
  • 「プレハブ=安っぽい」という過去のイメージによる心理的ハードル
  • 一部の貸し手・保険会社による慎重な姿勢(ただし状況は改善傾向)

近年は、大手金融機関・保険会社も MMC に投資しており、たとえば Legal & General が大規模なモジュール住宅工場を運営するなどの動きも見られます。

Legal & General のロゴ

BOPAS(Buildoffsite Property Assurance Scheme)のような保証スキームも整備され、
金融機関の融資判断の後押しとなっています。MMCでの建設がイギリスでも今後流行るかもしれませんね。

BOPAS

イギリスの不動産屋にとっての実務的な話

ここまで見てきた建築・構造の知識は、イギリスの不動産屋、サーベーヤ、ビルダーにとっては日々の不動産業務の中で大きな武器になりると思います。

1. 外観から基礎・地盤リスクを読む

このエリアは粘土質が多いので、最近の乾燥した夏の影響で基礎が動いていないか、外壁のひび割れも一緒に確認しましょう。こうした一言があるだけで、買主からの信頼度は大きく変わります。

2. リフォーム・改造のポテンシャルをその場で示す

屋根裏を見て、これはトラス構造なので、ロフトコンバージョンをする場合は補強が必要になり、費用感も変わってきます。

吊り木床の物件で床下換気が塞がれていると腐朽のリスクが上がるので、このあたりは測量士(サーベイヤー)にしっかり見てもらいましょう。

といった説明ができると、「この人は中身を分かっている」という印象を持ってもらえます。

3. 手続き上の行き詰まりを事前に防ぐ

新しめの窓を見て、交換時期からするとFENSA証明書か Building Control の書類があるはずなので、売主様にご用意いただけるか確認しておきます。と伝えれば、売買契約時点で「窓書類問題」で止まるリスクを減らせます。


最後に大事な前提:不動産屋は測量士(サベイヤー)ではないという自覚

Ricsのロゴ

ここまでかなり踏み込んだ内容を扱ってきましたが、不動産屋はあくまでも不動産の仲介・アドバイスのプロであり、「構造の最終判断」を下す専門家ではありません。

明らかな構造上の問題が疑われる場合や買主がより詳細な技術的意見を求めている場合には、必ず RICS(the Royal Institution of Chartered Surveyors)認定の測量士:サーベイヤーや、適切な専門業者への相談・紹介を勧めるべきです。

建物の仕組みを理解したうえで、どこまで自分が説明し、どこから専門家にバトンを渡すかを見極められることが大事です。

それこそが、イギリス不動産マーケットで長く信頼されるエージェントに共通する姿勢と言えるはずです。

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この記事を書いた人

西島伸一朗のアバター 西島伸一朗 https://jtecpc.co.uk/

Japan TEC Property and Cleaning Service Ltd.(JTECPC.CO.UK)のディレクター。
2007年にロンドンへ移住。アクトンの日系不動産仲介を皮切りに、ノッティングヒルやフィンチェリー、さらにイーリングといった地域で豊富な賃貸仲介経験を積み、独立。2019年より本業。趣味はバドミントン。#グーナー。

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