福井さん自腹で地方の病院に一年研修に行きます。家賃は一年間前払いできます。賃貸できますか。
「1年分、家賃を先に全部払います」。日本ではこう言えば、たいていの大家さんは大歓迎です。優良顧客もいいところ。でもイギリスで同じことを言うと、エージェントの顔がスッと曇る。下手すると「それはできません」と一蹴される。現金があるのに、です。
渡英して最初の物件探しで、この壁にぶつかる日本人が多いんです。お金の問題じゃない。信用の問題でもない。実はこれ、イギリスの「法律」と「保険」の仕組みが原因なんです。
今日はその種明かしと、じゃあどうすればいいのかという現実的な解決策まで、まるっと書いていきます。
現金はちゃんとあるのに、なんで貸してくれないの…? 差別されてる気がして、正直ちょっと腹が立つ。
その気持ち、すごくわかります。でも安心してください。差別じゃないんです。大家さんが「断らざるを得ない」法律があるだけ。仕組みがわかれば、ちゃんと借りられますよ。


「家賃を一括で払います」がイギリスで逆効果になるワケ


まず大前提を一つ。イギリスでは、家賃の一括前払いは「あなたの信用を上げる魔法の言葉」ではありません。むしろ警戒される。なんなら大家さんが法律違反になるリスクすらある。ここ、日本人がいちばん誤解しているポイントです。
「えっ、お金を払うのに違反になるの?」と思いますよね。なります。理由は2つあって、どっちもイギリス特有の事情なんです。


契約前に家賃を受け取ると、それだけで違法
イギリスには「借主手数料法(Tenant Fees Act)」と、それを大きく強化した「借主権利法(Renters’ Rights Act 2025)」というルールがあります。ざっくり言うと、借主を守るための法律。
この法律では、契約書に双方がサインする前に家賃を受け取ることが「禁止された支払(prohibited payment)」とされていて、はっきり違法です。さらに、契約を結んだあとでも、原則として1ヶ月分(28日分)を超える家賃の前払いを「求める・受け取る」ことは無効。つまり「1年分先に払う」という申し出は、法律的に大家さんが受けられないんですよ。
しかも罰則が地味に重い。地方自治体が科す民事過料は、初回で最大5,000ポンド、繰り返すと最大30,000ポンド。借主権利法に基づく不遵守の罰金にいたっては、初回最大7,000ポンド、悪質なケースだと最大40,000ポンドにまで跳ね上がります。日本円でいえば数百万円から、下手すれば800万円近い。大家さんからすれば「あなたの1年分の家賃」と「最大4万ポンドの罰金リスク」を天秤にかけるわけです。そりゃ断りますよね。
だから最近手続きがかわったなとおもった総務の方、そうです。契約書にサインしてからやっと請求書がおくられれてくるようになったんですね。同時でなくなったため少しご入居には余裕をもちましょう。
一括前払い→早期解約は「資金洗浄の典型」と見なされる
もう一つが、マネーロンダリング防止(AML)規則。2025年5月14日に施行された新しいルールで、不動産市場を通じた資金洗浄への監視がかなり厳しくなりました。イギリスでは賃貸市場を経由したマネロンが年間100億ポンド規模と推定されていて、当局も本気です。
で、何が問題かというと「多額の家賃を一括で前払いして、すぐに早期解約して返金を受け取る」という流れ。これ、汚いお金をきれいなお金に変える典型的な手口とされているんです。出どころの怪しい現金を家賃として大家に渡し、解約時にクリーンな返金として回収する。大家さんがこれにうっかり加担したと見なされると、最高で7年の禁錮刑。刑務所です。
だから現金一括の申し出は、善意であっても大家さんの目には「リスクの塊」に映る。たとえばあなたが「半年分、今すぐ振り込みます」と言った瞬間、相手の頭の中では赤いランプが点滅しているかもしれない。残念だけど、これが現実です。
なぜUK在住の保証人が「絶対条件」になるのか


一括前払いができないなら、大家さんは別の方法で「家賃滞納の不安」を消したい。そこで登場するのが、イギリス国内に住む連帯保証人(UK guarantor)です。これがないと門前払い、という物件は本当に多い。
保証人ってそんなに大事? 日本だと保証会社に一括で払えば済む話だったのに。
イギリスでは保証人が「保険の発動条件」になってるんです。ここを理解すると、大家さんが頑固な理由が一気に腑に落ちますよ。
保証人になれる条件はイギリス在住もそうですが、その人の収入も十分でないといけません。こちらの記事が参考になります。


大家が入る「家賃保証保険」と財政証明の壁
イギリスの大家さんの多くは住宅ローンを抱えていて、家賃が止まると自分の返済も止まる。だから「家賃保証保険(Rent Guarantee Insurance、RGI)」に入っているケースが多いんです。Hamilton FraserやHomeletといった会社が提供していて、借主が家賃を滞納したときの未払い分や、立ち退きにかかる法的費用をカバーしてくれる保険ですね。
ところが、この保険を有効にするにはテナントが厳しいクレジットチェック(信用調査)を通らないといけない。ここで詰むんです。留学生や赴任したばかりの駐在員は、イギリスでの信用履歴がゼロ。スコアが存在しないので、システム上は自動的に「高リスク」と判定される。お金を持っているかどうかは関係ない。履歴がないことそのものが問題なんですよ。
そして審査に落ちた人を救済する条件が「UK在住の保証人の署名」。保証人がいれば、滞納があっても保険会社はその人に請求できる。だから保険を成立させるために、大家さんは保証人を求める。お金の有無じゃなく、保険のルール上どうしても必要、というわけです。
立ち退きに平均10ヶ月 ― 大家が保証人を手放せない事情
もう一つ、大家さんの本音を支えているのが「立ち退きの大変さ」。イギリスでは家賃を滞納した借主を退去させる法的手続き(セクション8など)に、平均で10ヶ月もかかると言われています。10ヶ月ですよ。
その間、家賃は入ってこないのに弁護士費用はかさむ。物件はふさがったまま。損失は何百万円という単位になりかねない。だから大家さんは「いざというとき確実に追いかけられる、イギリス国内の保証人」を防衛策として絶対に手放さない。これは意地悪じゃなくて、自分の生活を守るための合理的な判断なんです。
イギリス在住の保証人がいないなら「有料の保証人代行サービス」を使えばいい


ここまで読んで「いや、イギリスに保証人になってくれる知り合いなんていないよ…」と青ざめた人。大丈夫です。ちゃんと解決策があります。それが、法人があなたの連帯保証人を代行してくれる「有料保証人サービス」。お金を払えば、会社が保証人になってくれる。これ、イギリスではかなり一般的な仕組みなんですよ。
代表的なサービスを、特徴と料金の目安つきで紹介していきます。自分の状況に合うものを選んでください。
Housing Hand(ハウジング・ハンド)― 業界最大手の安心感


まず鉄板なのがHousing Hand。利用実績10万人超の最大手で、迷ったらここ、という存在です。最大の強みは、海外在住の親などを「共同署名者」に立てて使えること。つまり親が日本にいても問題ない。これ、渡英したばかりの人には本当にありがたい。24時間使えるオンライン医師(GP)相談サービスまで付いてきます。
料金の目安は、学生だと年間家賃の5.0〜5.5%(最低でも295ポンド)。社会人は家賃の金額帯に応じた定額制になっています。たとえば年間家賃が2万ポンドの学生なら、だいたい1,000〜1,100ポンドくらい、というイメージですね。
私のお客様がハウジングハンドを使った時、日本の弟さんが保証人になったのですが、ズームでの面接や、もちろん彼の財政証明を提出しました。ただ翻訳はgoogle翻訳で対応してくれました。ただ入居は思ったよりおそくなり、三週間ぐらい必要でした。
RentGuarantor.com ― 信用にキズがあっても相談できる


過去にクレジットの問題があった人、たとえばCCJ(裁判所の支払命令履歴)がある人や、福祉手当を受けている人。こういう「審査が不安」な層に強いのがRentGuarantor.comです。一律で機械的に弾くんじゃなくて、個別に査定してくれる。しかもロイズの再保険に裏打ちされているので、大家さん側の信頼も得やすい。
料金は申請料が20ポンド(これは返金不可)、それに保証料として年間家賃の3〜4週間分くらい(最低249ポンド〜)が乗る形。分割払いにも対応しているので、初期費用をまとめて出すのがきつい人にも向いています。
RentBuddy ― 前払いを「合法的に」大家へアピールできる裏ワザ


最後に面白いのがRentBuddy。保証人代行もやっているんですが、注目なのは「Payments」というプラン。さっき「一括前払いは違法だしマネーロンダリングを疑われる」と書きましたよね。RentBuddyはその問題を合法的に回避する仕組みを用意しているんです。
どういうことかというと、あなたのお金をいったん信託口座に預けて、そこから毎月の家賃を大家さんに自動送金する。大家さんから見れば毎月ちゃんと家賃が入ってくるし、お金はすでに確保されている。でも「1ヶ月超の前払いを受け取る」という違法な状態にはならない。年額299ポンドなどのプランで、「資金力はあるけど信用履歴がない」人の弱点をきれいに埋めてくれます。お金で安心を買いたい人には刺さる選択肢です。
ちなみにUK Guarantorというサービスも295ポンド〜で展開していますが、こちらは現在Housing Hand傘下になっています。
HomeLet Guarantor


最近出てきて気になっているのがHomeLet Guarantor。3,700以上のレッティングエージェントが使っている、という規模感。そのHomeLetが「No Guarantor? No Problem.(保証人いない?問題なし)」というキャッチで出してきたのが、このサービス。
仕組みがちょっと面白くて、これは基本的にレッティングエージェント経由で、テナントが自分で買うかたち。物件のリファレンスチェック(入居審査)の流れにそのまま組み込まれていて、エージェント側の追加作業なしで使える。だから「自分で別の保証会社に申し込む」というより、「申込みのプロセスの中で保証オプションを買う」イメージに近いです。
気になる費用は、公式によると家賃1ヶ月分(テナント負担)。
「UKに来たばかりの人、学生、会社員、自営業、年金生活者、給付受給者まで幅広くOK」とされていて、渡英直後でクレジットヒストリーがない人にもドンピシャ。
シェアハウスをするなら ―「連帯債務」という落とし穴に注意


もし家賃を抑えるためにフラットシェア(シェアハウス)を考えているなら、一つだけ強く警告させてください。イギリスの共同契約には「連帯債務(Joint and Several Liability)」という、けっこう怖い仕組みがあります。
これは何かというと、契約者全員が「家賃の全額」に対して責任を負うというルール。たとえば4人でシェアしていて、ルームメイトの1人が夜逃げして家賃を払わなかったとします。日本の感覚だと「払わなかった人の分は払わなくていい」と思いますよね。違うんです。残った人たちが、その人の未払い分まで肩代わりさせられる。最悪、あなた1人が全員分を請求される可能性すらある。
この恐怖を月額わずか16ポンド(または年額99ポンド)で切り離せるのが、Only My Shareというお守りサービス。他の同居人の滞納によって発生する連帯責任を、最大2万ポンドまでカバーしてくれます。これ、親に保証人を頼むときの説得材料としても最強なんですよ。「連帯債務のリスクはこの保険で消してあるから安心して」と言えれば、親も署名のハンコを押しやすい。シェア予定なら、入っておいて損はないです。
内見で使える「魔法のセリフ」とアクションプラン


仕組みはわかった。じゃあ明日、内見でエージェントに何て言えばいいの? ここが一番知りたいですよね。具体的に授けます。
こう言ってください。「I don’t have a UK-based guarantor, but I’m happy to use a guarantor service like Housing Hand or RentGuarantor. Would that work for this property?(イギリスの保証人はいませんが、Housing HandやRentGuarantorのような保証人サービスを使う用意があります。この物件で対応可能ですか?)」。この一言で、あなたが制度を理解している準備のいい借主だと一発で伝わります。エージェントの態度、たぶん変わりますよ。
動き方の順番はこうです。まず内見の前に、自分の状況(学生か社会人か、信用履歴の有無、シェアか単身か)に合うサービスに目星をつけておく。次に、収入証明やパスポート、ビザの書類をまとめておく。多くのサービスは収入が年間家賃の30倍前後あるかを見るので、給与明細や雇用契約書、預金残高証明があるとスムーズです。そして内見でさっきのセリフを出す。気に入った物件があれば、その場で保証人サービスの申し込みを始める。早い人だと数日で審査が通ります。
「現金があるのに借りられない」という理不尽は、あなたが悪いわけでも、能力が足りないわけでもありません。ただイギリスの法律を知らなかっただけ。逆に言えば、ルールさえ押さえれば、あなたの資金力はちゃんと武器になります。
とはいえ、慣れない国で書類を集めて、英語でエージェントとやり取りして、保証人サービスの審査を通して…と全部を一人で抱えるのは、正直しんどい。僕自身ロンドンでリロケーションの仕事をしていて、まさにこの「保証人の壁」で立ち止まるお客さんを何人も見てきました。
JTECでは物件探しから保証人サービスの選定・申し込みのサポート、契約書のチェックまで、日本語で伴走しています。一人で消耗する前に、よかったら気軽に相談してください。あなたの渡英最初の一歩が、できるだけ軽くなりますように。







